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大規模災害における、社労士の役割(2)復興初期

社会保険労務士の荻生清高です。

能登半島地震の被害に遭われた皆様に、お見舞いを申し上げると共に、一日も早い生活の安定と、復興を願っております。

熊本地震を社労士として経験した、復興支援の体験を共有します。
毎年のように各地で繰り返される台風・豪雨災害、そして来る南海トラフ巨大地震・首都直下型地震において、少しでも早い復興に、つながることを願います。



フェーズ2「復興段階」開始の判断


前項では、被災時におけるフェーズ1「災害発生直後」を説明した。

ここからは、地震の直接被害が、収束に差し掛かって以降の話を進める。

具体的には、以下の状況が揃った時点となる。

  1. 余震の収束

  2. 物資供給が落ち着く

  3. 災害関連死の危険が去る(避難所から二次避難・仮設住宅への移転)

この状況に至ると、被災地はフェーズ2・復興段階に入る。

いつの時点でフェーズ2に入るかは、被災地の中でも状況が異なり、判断が難しい。ただ一般的には、被災地の社会福祉協議会が一般公募のボランティアなど、外部の支援人材の受け入れを始めた時点を、フェーズ2に入ったとみなすと、概ね間違いはない。

災害復興支援における社労士の役目は、ここから始まる。
フェーズ2・復興段階に入った時点が、社労士をはじめ士業の復興支援の合図となる。


フェーズ2「復興段階」で、社労士が果たすべき役割


フェーズ2で、社労士が果たすべき役割の第一は、「なりわいの再建」である。

人々の生活を再建させるには、まずカネが必要である。
これを言い換えれば、収入の途を閉ざさないこと。

つまり、企業に事業を存続させ、賃金を払い続けてもらうこと。
これが、第一目標となる。

ここで、被災事業主は2つに分かれる。

ひとつは、復興の可能性、および復興の意思がある事業主。
もうひとつは、被害があまりに甚大で、事業を閉鎖せざるを得ない事業主。

ここでは紙幅の都合上、前者についてのみ、解説を進める。
後者については、別の項にて説明したい。


「雇用調整助成金」被災地特例を活用する


人々の「なりわい」を守るうえで欠かせないのが、雇用調整助成金の活用である。

雇用調整助成金とは、景気の変動や産業構造の変化など経済上の理由で、従業員をやむを得ず会社の都合で休ませた(これを「休業」という)間、会社が休業手当を支払ったとき、その休業手当の一部を、助成金として会社に支払うものである。

この雇用調整助成金は、本来は災害を理由には使えない。
だが、これまでの大規模災害、また経済上の重大な事態においては、この雇用調整助成金の特例措置を発動し、支給対象や支給額を増額して使うことが、恒例となっている。東日本大震災や熊本地震をはじめ、リーマンショック、新型コロナウイルス感染症のまん延時においても、ひろく使われたので、覚えている人も多いだろう。

大規模災害においては、雇用調整助成金の特例が確実に行われると、考えてよい。

能登半島地震においても、雇用調整助成金の特例措置が早速、適用されている。助成率の拡充・助成対象の拡大措置も、適用が決まった。

この雇用調整助成金の活用が、復興支援の第一の核となる。

なお最近では、助成金を手がけない社労士も増えているというが、この雇用調整助成金の活用だけは、すべての社労士が、理解しておくべきと考える。少なくとも被災事業主に、基本構造を説明し、理解を得た上で支援につなげられる程度の理解は、社労士に必須と考える。

雇用調整助成金の活用の有無は、顧問先の経営者と従業員、そして被災者の復興の成否を、ひいては生命すら左右し得る。その自覚と覚悟を、社労士には求めたい。

まずは人を、雇用を守ることが、第一の目標


フェーズ2「復興段階」の初期においては、労働者たる人々のなりわいを維持し、雇用を守ることが、第一の目標となる。

人がいなければ、復興は実現できる。
裏返せば、人を失ったら、取り返しがつかない。

まず人を、雇用を守ったところで、事業の本格的な復興に向けた支援に入る。

詳細は次項で解説したい。


社労士が事業主の復興支援を行う意義


「なりわいの再建」という基本は、他にも応用できる。

例えば、労働者には雇用と収入の確保という形で関わるが、高齢者・障害者等に対しては、年金受給の支援に置き換えられる。

かつて東日本大震災においては、社労士が年金事務所と連携し、流失した年金証書の再交付や年金受給支援、保険料減免措置の相談対応を行い、多大な貢献を果たしたこと、またハローワークとの連携で基本手当(いわゆる失業手当)の特例受給の支援対応を行ったことなどが、被災3県の社労士会の記録に残されている。

社労士は、事業の復興を通し、被災地における人々の「なりわい」と、被災企業の両方を、守ることができる。

また、社労士は顧問契約でつながる、事業主のネットワークを持っている。

この特色を活かすと、フェーズ2の後半での支援を、効果的に進めることができる。

具体的な方法は、次項で示す。

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