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大規模災害時における、社労士の役割(1)災害発生直後

1月1日に起こった、能登半島地震。
被害に遭われた皆様には、心よりのお見舞いを申し上げます。


大規模災害において、社労士として何ができるか。
熊本地震、そして令和2年7月豪雨を経験した社労士として、復興支援を行った経験をもとに、まとめてみた。

ひとりの社労士の限りある経験・限られた地域での出来事をもとにしているので、不足も多々あると思われる。ぜひ、ひとりでも多くの経験者の、ご指摘およびご助言・補足を賜れれば幸いである。



能登半島地震の現状

能登半島地震においては、この記事を作っている時点で、発生から10日余り過ぎてもなお、いまだ発生直後の状況から、回復していない。

  1. 余震が収束していない

  2. 被災地へのアクセスルートが回復していない。支援は自衛隊など自己完結型に限られ、外部からのボランティア等一般の支援の受け入れが認められていない

  3. 物資や医療の供給が安定しておらず、避難生活の安全が確保できていない

このような災害発生直後の状況を、フェーズ1とする。

フェーズ1の段階で、社労士の果たせる役割は何か。
以下、被災地域の社労士と、それ以外の地域の社労士で分けて説明する。

フェーズ1「災害直後」における、被災地域の社労士が果たせる役割


被災地域の社労士には、苦しい状況に置かれていることに、重ねてお見舞い申し上げる。
被災地に届くかは心もとないが、参考までに記しておく。


被災地の社労士の、4つの役割と、その優先順位

まず最優先するのは、(1)事務所の代表及び職員、そしてその家族の安否確認、そして生命の安全と健康の確保である。

その次に、(2)顧問先へ事業主、従業員およびその家族の安否確認、生命と安全の確保の呼びかけを行う。

被災直後は、とにかく人の生命と、安全の確保が最優先である。

その上で、(3)社労士事務所の構成員、および顧問先に、「安全、誠克および健康に関する情報の提供」を行い、災害関連の死傷病防止・予防を図る。

具体的には、以下の対応が考えられる。

  • 保険証や自己負担額・保険料その他の災害特例の案内

  • 労災への注意喚起、特例措置の案内

  • エコノミークラス症候群への注意喚起と予防法の案内

など。

これは東日本大震災、熊本地震のときのの厚生労働省の災害情報に資料等が揃っている。災害の発生直後で情報が揃わないときは、過去の災害情報から取得して、速報として情報提供を行う。

基本的に、災害支援は過去の災害で行われた措置を、アップデートして実施される。そのため、過去の災害での支援情報は、後の災害にも活用できる。

なお、能登半島地震については、既に厚生労働省の専用ページができているので参考にされたい。

その上で、社労士自身および被災事業主に余力があるようなら、(4)被災状況の記録を、呼びかけておく。

これは片付けに取り掛かる前に、破損品目や破損箇所、また物が倒れたり飛散した状況を、写真に撮って記録しておく。

写真は1箇所あたり数枚、複数の角度から撮っておくのが重要である。これは後日、罹災証明書の取得や補助金申請、および地震保険その他保険金の請求に、必要となる。「荷物、本棚の本が落ちた」でもよいので、とにかく被災状況を記録に残しておくことが、大事である。

なお、災害時は建築資材や建設・工事の作業員が不足するので、早めに確保したい気持ちになるが、補修を急ぐ必要はない。
基本的には、補助金など支援措置が始まってからでも、十分間に合う。
その間の雇用は、雇用調整助成金の特例措置を活用し、会社の資金流出を防ぎつつ、休業手当で繋ぐことができる。

社労士事務所自身、そして顧問先の経営者、従業員、およびその家族の生命と健康を守る一連の措置をとること。
ここまでが、フェーズ1における、被災地域の社労士の役割となる。


フェーズ1における、被災地の外にいる社労士の果たせる3つの役割


フェーズ1の段階では、外部からの被災地への立ち入り、および物資を送っての支援はできない。よって、被災地への間接支援がメインになる。

この段階で、被災地の外にいる社労士に、果たせる役割は3つ。

まず(1)。第一の選択肢は義援金となる。

これは、自分が信頼できると思ったところであれば、どこでもいいと考えるが、迷ったら日本赤十字社を果たせる役割

支援の(2)は、復興支援のノウハウの共有を挙げたい。

これまでにも私たちは、東日本大震災、熊本地震を含む大地震、そして多くの多くの風水害などを経験している。
社労士の中には、過去に自ら被災したり、被災した事業主の支援を行った経験を持つ人も、いることだろう。

災害への支援措置は、基本的に過去の災害で取られた措置が適用される。
そして、災害のたびにバージョンアップを、繰り返している。

ということは、過去の災害で適用された支援措置・特例措置を調べれば、災害でどのような支援が行われるか、先回りして見当をつけられる。

災害の発生直後に行われる支援は、厚生労働省の災害対応のホームページが参考になる。

このように、過去の災害での支援の経験やノウハウは、後の災害に活かせる。

加えて、社労士の災害復興支援においては、東日本大震災の被災地域である、宮城・岩手・福島の各県社労士会の、記録集が残されている。
各都道府県の社労士会に置かれているほか、上記地域では会の入会登録時に、会員に配られるところもあるらしい。

宮城・岩手・福島県社会保険労務士会の東日本大震災記録集

できればこの3つの記録集は、ぜひ他地域の社労士にも読んでいただきたい。自らの被災からどう立ち直ったか、そして被災地の人々や事業主に何を求められ、どのような支援を行なったか。その克明で壮絶な記録が、残されている。
尊い記録を残して下さった、各社労士会およびその会員社労士の皆様には、心からの感謝と、敬意を表したい。

そして、被災地域の外にいる社労士にできることの3つ目。
それは「来たる災害への備え」。

被災地外の社労士は、災害が起こる前、言わば「フェーズ0」の状況にある。

災害が起こる前に、災害への備えを、万全にしていただきたい。

南海トラフ・首都直下型地震は、近い将来に起こると言われている。また風水害は、毎年のように、全国至る所で起こっている。

日本にいる限り、どこでいつ災害に見舞われるかはわからない。よって、災害への備えは、普段から行っておきたい。

まず第一は、食料と水、そして薬など生活必需品の確保である。
一般的には、3日分の備蓄を勧められていたが、今回の能登半島地震では被災地への交通ルートの全てが遮断され、孤立状態がなかなか解消されない状況が続いている。

同様の状況が見込まれる地域は、1週間分程度の備蓄が、必要と思われる。

災害の備えについては、ホームページにも様々に掲載されているので、各自調べて、備えていただきたい。

そして社労士事務所においては、代表社労士と職員はもちろん、その家族も含めての防災対策を、日頃から呼びかけ対応することを求めたい。

なお弊所では、顧問先向けにハザードマップと避難所の確認を、定期的に行っている。


フェーズ2「復興段階」への備え


被災状況が落ち着くと、フェーズ2を迎える。
ひとつの目安としては、外部のボランティア受け入れが始まったところが、フェーズ2の開始となる。

社労士の役割と支援は、このフェーズ2から、一気に本格化する。
フェーズ2においては、社労士事務所の総力を挙げて、自らの事務所と顧問先の復興支援を、行うこととなる。

この自らと顧問先への復興支援が、社労士事務所の通常業務に上乗せされる。
この状況で、代表や職員が、本人や家族の被災で職務に就けない状態が起こると、業務が容易に逼迫する。

冒頭で、フェーズ1における社労士と職員の生命・安全確保を呼びかけたのは、フェーズ2の復興段階で活動できるためである点を、ご理解いただきたい。


社労士は、そして士業は、災害復興に欠かせないインフラである


筆者自身、社労士として災害を経験しているが、復興段階における社労士の役割は、極めて大きいことを体験している。

新型コロナ禍において、雇用調整助成金をはじめ事業の継続・雇用維持において、社労士の支援が求められ、また大きな貢献を果たしたことは、記憶に新しい。

本稿においては、災害時において「人」を守ることを、ここまで強調してきた。

人さえいれば、復興は実現できる。
社屋や設備、家屋が被災しても、人がいれば、社員が残っていれば立て直せる。

逆に、人の生命・健康が失われたり、また被災で離職して「人」がいなくなれば、取り返しはつかない。

「人」の生命を守ること。
そして、雇用を、事業を守り、人の「なりわい」を守ること。

それが、災害時における、社労士の、そして士業が果たす役割となる。

フェーズ2における社労士の役割については、稿を改めたい。


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