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Vol 4. 代わりが無数にいる業界で「選んでもらえる存在」になるために。没入しながら開放する、フリーランスとしての生きる速度

「手の速度でゆこう」はオンライン空間のちいさな器の商店街「ソーホー」が運営する、スモールビジネスの今と未来を探るためのポッドキャストシリーズです。第4回目は、ゲストにフードスタイリストのつがねゆきこさんを迎え、スタイリストとしての仕事内容、フリーランスとして独立するまでの経緯、さらには好きを仕事にし続けるための活動の育て方や変化の速度についてお話を伺いました。

つがねゆきこ
大手金融機関在職中にSUKENARIクッキングアートセミナーのフードコーディネーター科修了。アシスタントを経て2011年独立。フードを中心とした、暮らし周りのスタイリストを広告・書籍・雑誌などで手掛ける。2017年に「happyがうまれるフォトグッズのお店」として「&MERCI」を立ち上げ、フォトグッズの商品開発・運営を行う。2021年に(株)good moodを設立しアップサイクルなものづくりも始動。

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イメージの質感を捉えかたちにする。フードスタイリストという仕事

昨年12月、代官山T-SITEで実施されたTOKINOHA Ceramic Studioのポップアップショップをディレクション・キュレーションなさったつがねゆきこさんは、広告や書籍で活躍する、フリーランススタイリスト。生活の中で、「スタイリスト」という言葉をよく聞くことがあっても、ファッションでもなくインテリアでもない、「フードを中心とした、暮らし周りのスタイリング」とはどのような仕事なのか?まずはつがねさんにその仕事内容について伺いました。


清水:
フードスタイリストさんって、名前は聞くんですけど、特に僕が活動している京都とか関西の人間にとってはあんまり接する機会がない方だと思うんですよ。なので肩書きとかはなんとなくわかるんですけど、具体的にどんな仕事をしているのかはつがねさんと会って初めて理解したという経緯があったりするんですね。なので、まずはそのあたりをお聞きしたいです。

つがねさん:私は、食を中心とした暮らし周りのスタイリングを行っているんですけど、フードスタイリストという職種自体は、そんなに歴史が長くなくて、ファッションスタイリストやインテリアスタイリストから派生してできたようなものだと私は思っているんですね。昔は、インテリアのスタイリストさんがテーブル周りのコーディネートをしていたこともあるくらいなんですけど、それが今では少し別れてきている状況ですね。
今でもインテリアスタイリストの方が(テーブル周りのスタイリングを)やる場合もありますし、逆にもう少し広い空間を作りたいという時に、私たちフードスタイリストがフード以外のスタイリングをすることもあったりします。

清水:うんうん。

つがねさん:大きく分けると、動画(テレビ)と静止画(写真)の世界があるんですけど。料理が出てくる場面をスタイリングをすることで、イメージに合う環境を作ったり、必要になるものを用意したりとか、そこに乗る料理を調理するといったことも含まれる場合もあります。

清水:そういえば高橋さんって、めっちゃそんなんに詳しいですよね?元々広告におられたわけやから。

高橋:多分?そうなんですかね。英語だとプロップスタイリストって言うのかなと思うんですけど。よくテレビの広告とか作る時に、アートディレクターが世界観を作って、それを実際にどういう風に絵の中で表現するのかという時に、プロップスタイリストさんがいらっしゃって。私昔チーズの広告を作っていたんですけど、そのチーズがどんな風にパンの上に乗っていると一番アートディレクターの意向を表現できるか、ということを考えて美しく作り込んでくださる方々、というイメージがあります。

つがねさん:そうですね。海外だとプロップスタイリストという呼ばれ方をしていますね。プロップスタイリストの場合、食に関わらず、小物周りを全て表現するんですけど。

清水:なるほどね〜。なんか、関東にいると(そういう風に職業が)わりと細分化されていると思うんですけど、関西だとそんなに仕事がないからなのか、そこまで細分化されていないんですよね。例えば、1枚の静止画をつくるとなった時に、デザイナーがアートディレクター的な役割をして、ディレクションをして、フォトグラファーと料理人だけで話し合いながら、写真をつくり上げることの方が多い気がしていて。

つがねさん:関東でもそういうことがまだ多いですよ。多分そういうところから始まって、ものを集める時間とかを考慮すると、やっぱりイメージを具現化する人が必要になって、生まれた職業なのかなと思います。なので、私も何をしている人ですかと聞かれる時は「イメージを具現化する仕事をしています」とお話することが多いんです。

清水:そうですよね。だからすごく大事な仕事だと思うんですけど、なかなか知り合いにそういうことをしている方がいなくて。僕らも、写真を撮りたい時に、カメラマンさんがものをちょこちょこ動かしてくれて、食べ物に関してはなんなら自分たちで調理することが多いんですけど。みんなで「う〜ん・・・」とか唸りながらやっても、やっぱりチープな写真にしかならないんですよね。陶芸家は特に、自分の器ををどういう風に見せたいかを考えて写真の中で表現しなければいけないので、そういう時にすごく重要な人だなって思うんです。

高橋:いや本当に。全く同じものでも、置かれる環境とかスタイリングによって全然違うものに見えますよね。すごくチープにも見えたり、高級にも見えたりする。

つがねさん:そう思って頂けるとすごく嬉しいです。細分化されてできた職業なので、逆に言うと省くこともできるんですよね。見せ方が上手な写真家の方々もいらっしゃいますし、デザイナーさんがものを持ってくることがあったり、メーカーさんの部署の方がやる場合もあったりする業界なので。そういう状況があるので、わざわざお仕事としてご依頼いただくのであれば、クライアントさんのイメージを100%表現するのはマストという風に私の中では考えています。その上でプラスα、それを120%で返したいという気持ちがあります。

頼んでくださった方の意向を丁寧に噛み砕いてもので還元できるように、付加価値をつけなきゃいけないな、といつも思っています。



無難な生き方から方向転換。「見せる楽しさ」に出会い、自分の仕事をつくるまで

「無難に生きたい」という思いから、新卒で金融大手企業に入社し快適な社会人生活を3年間過ごしたつがねさんは、在職中にフードスタイリストの学校に通い出したことで、退職・独立を決意する。満足していた職場を去り、新たなチャレンジへと踏み出したその勇気ある経緯について伺いました。


つがねさん:学校に通い始めてからすごく楽しかったんですよね。それまでは「料理を仕事にする」というのは、レシピを作ったり、調理をしたりという仕事しかないと思っていたんですけど。「料理を見せる」というフードスタイリストの仕事があることを知って、実際にやってみて、私にとっては見せる楽しさが(作る楽しさ)に勝っていたんです。作る方よりも、見せる方が没入できるという感覚があったというか。

実際に、フードコーディネーターとして仕事を始めてからレシピを制作する仕事もあったんですけど、仕事を受ける中で、作る方は自分が一番得意な分野ではないという自覚もありました。あとは、料理を作る方だと、調理師課程をとって留学をして、という方々が既にたくさんいるので、その中では仕事にならない・できないという想いもありましたね。

清水:ということは、仕事しながら学校に通って、最終的には仕事を辞めるということですよね?

つがねさん:そうですね。学校が半年とかしかないんですよ。なので、そのまま元の仕事に戻る方の方が多いくらいなんですけど、私の場合は会社自体は嫌ではなかったので、戻ったらもうフードの世界には戻ってこないということがわかっていました。なので、仕事を辞めようと思ったんです。

清水・高橋:おぉぉ〜。すごい、いきなりですね。最初に「無難に生きる道をいつも選んでいた」とおっしゃってたと思うんでけど、そこからのギャップがすごい(笑)

つがねさん:本当ですよね。在職中に学校にいって、その頃からちょこちょこ料理家さんのアシスタントに入ったりしていて、ちょっと業界との繋がりができていたことも大きいかもしれないですね。今振り返ってみると、「好きを見つけた瞬間」だったのかなと思います。

清水:半年勉強したあとはフリーランス として独立ということですよね?卒業したあとはどうやってそこから仕事を取っていったんですか?

つがねさん:本当ですよね、どうやってたんですかね(笑)

清水:いやいや、自分で取っていったんでしょ?(笑)

つがねさん:人のご縁で繋がっていったのかなというところは一番あるんですけど、でもとにかくたやさず動いていましたね。その頃は、ネットでずっと仕事がないか探していたり、自分のHPを作ったりしていました。資格のない職業なので、ノウハウがわかっていれば誰でも名乗れてしまう職業でもあるので、その中で仕事を託そうと思ってもらうにはどうしたら良いのか?ということを考えましたね。

清水:僕の場合、陶芸家としてのキャリアをスタートした時は、友達とかに「(結婚式の)引き出物やらせてよ」という感じで、仕事をとっていったというところがあるんですけど。つがねさんもやっぱり知り合いからいくんですか?

つがねさん:最初は「こういう仕事をしています」ということを周りに認知してもらうために環境を整えていましたね。Webを作ったり、発信したり、ブログを付けたりしていると、ある日突然出版社の方から連絡がきたりするんです。やっぱり予算の関係で、その当時活躍しているスタイリストさんには頼めないけど誰かいないかなと探している方達がいて、連絡をしてきてくれたりするんです。私の最初の書籍の仕事はそういう経緯から頂いたものでした。

あとは、アシスタントをしていた時に出会った出版者の編集さんが、私が書籍の仕事を受けたことを見てくれていたりして、「あ、本を受けたのね。じゃあこの仕事できるかな?」みたいな形で仕事をくださったりしました。

元々フリーになる時の自分の目標として、(物質として手に残る)料理本のスタイリングをやりたいという希望があったんですね。なので、動画の方には本格的に足を入れずに、自分がどちらにあっているかを客観的に考えて、書籍や広告の静止画をメインにやりたいと思っていました。それを周りに言っていると繋がっていったところがありますね。

私にとって恩師のような編集者の方がいて、その方から毎月2〜3冊、1000本ノックのような感じで書籍の仕事を頂いていて、それを何年か続けているうちに、今のように色々なところからお声をかけて頂けるようになったという感じです。


代わりがたくさんいる世界で「選んでもらえる存在」になるために

クライアントが求めるイメージを形にする、黒子の役割が求められる一方で、フリーとして活動を続けるためには「自身の色」や「爪痕」も同時に残していく必要があるフリーのフードスタイリスト。つがねさんは、その両者のバランス感をどのように見ているのでしょうか?


つがねさん:う〜ん。すごく難しいですよね。クライアントの要望を形にすることが仕事なので、多分スタイリストの仕事自体は裏方であり黒子的な仕事だと思うんですよね。料理のスタイリストは昔から有名な方が何人かいて、その人のアシスタントについたら料理の世界への道が開けるみたいなところがあるんですよね。だけど、私は師匠がいなくて、勝手に一人でどんどんやり始めたので、ちょっと異端児みたいなところがあると思うんですよね。

清水:なるほど、じゃあ師匠がいる感じの人が多いんですね?

つがねさん:だと思います。なので、私のやり方があっているとは全く思わないんですけど、本来スタイリストの仕事は黒子に徹するべきなんですけど、私の場合はそこがちょっと違うのかなという感じもしていて・・・
やっと何年もかけて書籍の仕事を月刊2、3冊できるようになって、スケジュール的に飛ばしていた時に、出産・子育てが入ってきたんですね。そういう時に、東京のフードスタイリストが使う、お皿を借りたり色々なプロップを選ぶリースショップという場所があるんですけど、そこに行くと知っている人から知らない人までとにかくたくさんスタイリストがいるんですね。料理本を見ていても、同業者が本当にたくさんいるので、この変わりがたくさんいる世界で、「この人じゃないと」と言ってもらえるようなりたいと思ったんですよね。そのためには、100%で返すところを120%で返して、20%の付加価値を付けなければいけないから、そこで自分の色や爪痕をどうやって残すのかというのが課題になってきたんですよね。

出しすぎるとクライアントにとってあんまりメリットではないと思っていたんですよね。だけど、アートディレクターがいないようなお仕事もたくさんあるので、そういう中で「こういう方向性でいくなら、こういう世界観が良いんじゃないですか」と提案したり。あとは、同じスタイリストたちが行くリースショップを使うと、同じ絵ができあがる可能性があるので、リースショップ以外の別の場所でものを調達したりとか、そのブランドにとってメリットがあるように考えるということをやっていましたね。

その中で、TOKINOHAさんのことを見つけたんだと思うんです。リースショップの器は、年に何回行っているかわからないくらい行っているので、「見過ぎているもの」になってくるんですね。なので、撮影のために作家さんに直接制作をお願いして、撮影のために使わせてもらったりとかもしています。それが作家さんにとってメリットになることなら双方に良いことだと思うので。リースショップに頼らずに、自分で開拓することを大事にしていますね。


両立を手放し、没入しながら開放する。活動は自分のリズムで育てる

キャリアが波に乗っている時に出産・子育てを経験し、そこから自分らしい色を出しながらもクライアントの以降に120%で答えていくための工夫を繰り返したつがねさん。子育てとキャリアの両立、そして自分らしい速度で活動を育てていくための秘訣を最後に伺いました。


つがねさん:両立のことはよく聞かれるんですけど、今でも両立できているのか不明なところがあるんですよね(笑)

でも言えるのは、(子育てをしながら働くと)明らかに稼働できる時間が半分以下になるんです。仕事にかけられる時間が減るからこそ、受けられた仕事に対しての質を上げる。そうすると、自分の中で仕事が終わった後に納得できる成果物ができるのかなと思っています。なので数ではなく質を上げるということなんですけど、だけどそれを両立と呼ぶのでしょうか・・・?(笑)

清水:いや、だけどその方法しかないですよね。

つがねさん:でもそれが、自分のブランディングみたいなものにも繋がるのかなと思うんです。質が上がると、良いものに携われる機会が増えて、それがまた次の機会に繋がるというのがあって。今はずっとそういう感じで動いています。

清水:そうですよね〜。多分男性も女性もフェーズがあるんですよね、きっと。闇雲に1000本ノックしまくるみたいな時期がどんな職種にもあって。それが多分初めにあって、ただそれをずっと続けるのは難しいので、そこから自分の中で意図的に次のフェーズにガラッと移行して、質を上げて、1000本ノックみたいな仕事を減らして、質の良い仕事をチョイスしてやっていくみたいなのはありますよね。僕自身もやっぱり、そういうふうにちょっとずつ変化してきているつもりです。

でも女性の場合は特に、自分のタイミングというか「そうさせられる」みたいなことはちょっとあるのかもしれないですよね。

つがねさん:そうですね〜。料理家さんだと主体になる方なので、そのタイミングで仕事の時間をコントロールできると思うんですね。でもスタイリストはいくら仕事を減らしても、自分主体では動けない仕事なんです。そこが2回目にぶちあたった壁ですね。受ける本数が減っているのに、全くバタバタ感がなくならない時期があったんですよね。

そういうこともあって2人目の出産のタイミングで、「&Merci」というブランドを立ち上げたんですよね。

清水:そうですよね!僕その話詳しく聞きたいです。

つがねさん:元々仕事をする中で「こういうのあったらいいのにな」と思うものを実際に作ってみた、という話なんですけど。海外ではよくフォトグッツというものがあって、例えばお菓子の撮影の時とかに、お菓子を可愛く見せるようなプロップがあるんですけど、日本製で可愛いものが全然なかったんですね。なので、撮影の度に自分で作ったりしていたんですけど、それを試しにメーカーさんにお願いして作ってみたら、欲しいって言ってくださる方々がいて。

私がラフ画を書いてデザイナーさんに(印刷会社や木工職人にお願いする入稿データを)起こしてもらって、商品撮りをして、Webで販売するという形で運営しています。

高橋:それはお2人目が生まれたタイミングで始めたんですか?

つがねさん:業界に1人お子さんがいる方々はたくさんいたんですけど、2人いる方が全然いなかったので「2人目ができたら、もう仕事にならないかもしれない」という気持ちがあったんです。なので、自分でものを作れば、商品撮りをするので、その時に自分でスタイリングできる。そしてそれを販売するというサイクルがあれば、自分で仕事が作れると思ったんですね。

現場にずっと通い続けるのはいつまで自分ができるかわからないというのもあったので、いつか自分で動かせるブランドや世界があったらまた楽しめるかもしれない、と思って立ち上げたんですよね。

高橋:いや〜、すごいですよね!お子さんが生まれる大変な時期にまた新しい活動を起こして、プラス自分もフリーランスのスタイリストとして活動しつつ、いつも3つか4つくらい同時並行で進んでいる感じですね。でも、全部の活動がつがねさんのリズムでうまい具合に育っている感じがあって。つがねさんにとって、自分が心地よく生きる速度ってどんなものなんでしょうか?

つがねさん:う〜ん。正直なところ、心地よく生きる速度をずっと探しているような感じなんですよね。理想としては考える余白を持てる速度でありたいと思うんですけど、なかなか難しかったりするので。

比べるものでもないんですけど、仕事と同じくらい子育てもすごく楽しんでいるので、どちらかを犠牲にしないように、「没入しながら開放もしつつ」というテーマで生きていきたいと自分では思っています。


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ゆったりした雰囲気と穏やかな口調、力み過ぎずにその時々の最善へと冷静に向かってゆくつがねさんのあり方には、「没入しながら開放」というご自身のライフテーマがしっくりと響く。目まぐるしく変わっていく人生のフェーズや、業界を取り巻く環境の中で、常に自分にとっての「好き」を中心に、「処理する」よりも「育てる」ためのリズムで、長期的な目線で活動を育み変化する、つがねさんの生きる速度。女性だけでなく、変化の激しい時代に自分らしい人生を送りたいと願う様々な方々へのインスピレーションとなるお話を伺えたと思います。

つがねさんご多忙な中ご参加頂きありがとうございました!TOKINOHAとの今後のコラボレーション、そして更なるご活躍を楽しみにしています。


テキスト:高橋ユカ

(本記事は2022年1月27日に「Zoom」を使用して収録された内容を元に記事化しています)

▼収録内容の全編はポッドキャストから
Vol 4. 代わりが無数にいる業界で「選んでもらえる存在」になるために。没入しながら開放する、フリーランスとしての生きる速度 
Podcast:shorturl.at/bruFO
Spotify:https://open.spotify.com/show/5rI2OubflZWO1kfTpVnVwa

▼ソーホーWebsite
https://so-ho.shop/



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