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悩みは距離感

 Jさんは韓国の大学生。就活中で、日本の会社での就職を希望していました。私とレッスンを始めた時にはすでに日本語は上級レベルで、直すところはほとんど皆無でした。ネイティブのように崩して話すことがないので、むしろ日本の学生よりも丁寧できれいな日本語といってもいいくらいでした。ですから、当初の目標の面接のための日本語は難なくクリアしたのですが、Jさんにはまだちょっとした悩みがありました。「あの~、日本人の友達に、いつまでも距離感を感じると言われます。どうしたらいいですか。」

 距離感を感じる・・つまり友達なのによそよそしい、いつまでも仲良くなれない感じがするということです。なぜそう日本人が感じたのかというと、それはJさんの丁寧すぎる日本語のせいでした。実は、これはよくあることで、日本語を外国できちんと教科書にそって学んできた人は「ます、です」から始めるので途中からくだけた表現を教えられても、容易に変えることができないのです。

 そんな時はあえて私がため口を使い、生徒にも同じように話すように促します。そうやって段々慣れていくのですが、Jさんの場合、なかなか慣れることができません。慣れるのが難しいというより、なにかためらっている感じがしました。

 Jさんはビデオを使うのを好まず、音声チャットだけでしたので、そのうち私は、もしかしてこの人は本当は日本人で、何か私の教える方法を探っているのでは?と変に疑い始め「Jさん、実は日本人じゃないの?やけに日本語じょうずだし・・」と冗談交じりに聞いてみました。「いえいえ、違います~。ほんとうに韓国人ですぅ~。」丁寧な口調ながらも語尾をちょっとかわいらしく伸ばして話すあたりが、さらに日本人のようでした。

 「日本が大好きで何回も日本に行きました。前回は船のツアーで行ったんですけど、とっても安かったです。でも、時間がかかりすぎたからもう二度としたくないですぅー」丁寧ながらも、なにかひょうきんが感じが声のトーンから伝わってきす。ふと、韓国ではどんなタイプの人なのだろうと疑問に思いました。「あのー、Jさん、韓国語で友達と話すときはどんな感じ?」「えっ、えーと・・実は、韓国語でも友達に距離感があるっていわれます」

なるほど。Jさんはそういうキャラだったのかと妙に納得しました。いつも丁寧な口調をつかって自ら距離を置く人。真面目過ぎてため口が使えないというよりは、自分のテリトリーを維持したいという意識があるのかもしれません。もちろん本人は距離感があるのが悩みといってるくらいなので、意識的にそれをしているわけではないと思いますが。

 それでもそれなりに、Jさんは私とため口で話すのを楽しんだようでした。その後どこか日本の企業に就職したという話を聞いたような気もしますが、どうしているでしょう。今ごろはもう、結婚して子供でもいるのかもしれません。そうだとしたら、家族とは距離感なく会話ができているといいんですけど・・。

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