『Aavesham』
監督:Jithu Madhavan
出演:Fahadh Faasil、Hipzster、Mithun Jai Shankar、Roshan Shanavas、Sajin Gopu など
公開:2024/4/11
2~3億ルピーの制作費に対して、15億ルピーの興行収入をあげているマラヤラム映画。
しかし、トレーラーを見ても派手な演出があるわけではなく、何がウケているのかがよく分からなかったので、実際に観てきた。
なお、公開から1か月以上が経っているが、劇場はほぼ満席だった。
観る前は本当に面白いのかと懐疑的だったが、これがめちゃくちゃ面白い。
そして、Fahadh Faasilが良い役をしている。
主演のFahadhはケララ出身の有名俳優。
活躍の場はマラヤラム映画がほとんどだが、タミル映画にも一部出演している。
2022年に公開されたタミル映画『Vikram』ではKamal HassanやVijay Sethupathiらと共演し、癖の強い2人に負けない存在感を放って、見事な三つ巴を演じた。
Fahadhがマラヤラム映画界でどのようなポジションにいるかは分からないが、女性ファンが多いんじゃないかと思う。
南インドのアクション映画はいつも野太い歓声が飛び交うが、今日は観客から黄色い声も多く聞こえた。
Rangaの登場シーンが最高だった。
復讐のための強力な後ろ盾を探してローカルバーを開拓していく3人。咥えたばこをしながらトイレで用を足している時に、後ろからマラヤラム語で「火を貸してくれないか」と声をかけられる。Bibiが「しょんべんが終わってからでいいだろ」と邪険に言い返し、「わかったわかった」と答えが返ってきたその直後、Fahadh演じるRangaがBibiの前にグイっと顔を突き出してシガーキスする。
劇場内に響く黄色い歓声。
南インドのアクション映画では、主人公の登場シーンが凝った演出になっていることが多いが、この登場の仕方は映画史上屈指だと思う。
この演出を考えた人を抱きしめたい。
Fahadhが演じたギャングのRangaは捉えどころのない人物。
剽軽なのだが、どうも目が笑っていない。
パーティー大好きで人懐こいが、他人との距離の詰め方がおかしい。
Rangaの忠臣AmbaanはRangaの過去をよく語るが、実際に自分が見たわけではなく真偽のほどは怪しい。
かつてお金のことで親族と揉めて、従兄を殺害し、自宅のキッチンに死体を埋めたというエピソードとか。
さて、前半の終盤、Ranga一行は乱暴者上級生Kuttyを成敗するのだが、Rangaは指示を出すだけで自身は全く手を出さない。
以降の乱闘でもRangaは相手に手を触れることすらしないが、実はこれには理由がある。
過去に従兄を殺めた際、母親に二度と手を血で汚さないと約束したからだ。
しかし、Rangaがギャングであることを嫌った母親は彼を捨てて家を出て行ってしまい、このことが彼の心にぽっかりと大きな穴を作っている。
この母親を強く慕う気持ちが、結果的にこの映画をハッピーエンドに導くことになる。
以下、ネタバレ含みで。
襲撃に来たReddy一行を一人で壊滅させたRanga。
次は、自身を裏切った大学生3人組を殺害するために、家の中に隠れている彼らを探し回る。
その際、「俺には本当の友達がいないんだ!近づいて来るやつらは、みんな金や力目当てなんだ!」と心情を吐露する。
Rangaが3人組に家やたばこやビールで破格のもてなしをしたのも、本当の友達ができたと思って喜んでいたからだったのだ。
身をひそめながらRangaの悲痛な叫びを聞いたShanthanは、思わず「Sorry!」とソファの陰から飛び出してしまう。
しかし、興奮状態のRangaが許すわけもなく3人に襲い掛かり、3人は小部屋に立てこもる。
Rangaが手斧でドアを破壊しようとしていると、彼の足元に落ちていたBibiの携帯から着信音が鳴る。相手はBibiの母親。
母親に捨てられたトラウマがあるRangaはそれを無視することができずに、電話に応える。
Bibiの母親「もしもし。Bibi?ちがうわね、あなたは誰?あぁ、Rangaさんね(RangaとBibiの母親は電話をしたことがある)。あなたはHapppyかしら?BibiもHappy?」
これをきっかけにRangaの心がほぐれていき、最終的に3人を許すことにするのだ。
これにてハッピーエンド。
あと、小噺だけど、Bibiの着信音が『K.G.F』の音楽なのが良かった。
前面に押し出されている訳ではないけど、この映画も他の南インドの映画同様に、「母の愛」みたいなのが一つのテーマになっているような気がする。
ギャングを演じるFahadhの演技も素晴らしいが、この映画は他の出演者のキャラも立っている。
Rangaを心の底から慕っている忠臣Ambaan。
いつもRangaのそばにいるお調子者。
Rangaが「俺には本当の友達がいないんだ!」と叫ぶのを聞いて、「俺は友達だと思われていないんだ……」と悲しそうな顔をする。
運転手や雑用を務めるおじいちゃん。
実はカンフーの達人という漫画みたいなキャラクター。
名前の通り、香港映画のようなアクロバティックな演技を披露する2人組。
ギャング映画なので暴力シーンは多いが、派手な血しぶきとか、首や手足が飛んだりするシーンはなくて、タミルなどで好まれるアクション映画と比べるとマイルドだった印象。
血なまぐさいのが苦手な人でも楽しめると思う。
また、この映画はアクションコメディーということだが、コテコテのコメディシーンもあれば、シュールだったりひねりのきいたりした笑いもあった。
日本人にもけっこうウケると思ったので、日本での公開を期待したいところ。
この監督、情報が少なかったのでなんとも言えないけど、今後もこのテイストを続ければ、Lokeshみたいな人気監督になりそう。
一応この映画は完結していたけど、Rangaの活躍はまた見たいと思うし、ユニバース化を希望。
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