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竹芝

(写真7枚 / 写真と本文関係ありません。)

波風の立っていない日常のリズムの中で調子よく振舞うのは簡単だ。心に余裕があれば他人のために何かをしてやることだって大きな負担にはならない。安い恩でも人望を稼ぐことはできる。

そうやって薄っぺらな人望を稼いだ男が、波風が立った途端に手のひらを返して保身一直線に全力疾走するサマは心の底から無様であった。彼は今もなお、保身に全力を尽くしていて、ただただ憐れだなとしか言いようがない。

所詮、最初から「己を棄てる」覚悟の無い人間が、いざという場面で誰かを守ることなどできやしない。そういう男は仲間だろうが家族だろうが平気で裏切る。

「例えば、もしきよひこさんがお金に困っているというのであれば、100万円くらいならすぐに用意しますよ。500万だとちょっと考えちゃうけど(笑)」

会社で仲良くしている子からそんなことを言われた。お金の相談をしていたわけではない。お金はあくまで喩えで、要するにそれくらい僕のことを信頼していて、それくらいの負担はいつでも負う覚悟があるということが言いたかったようだ。年下の女性に無心するほど貧乏でも恥知らずでもないけれど、そこまで言われて悪い気はしないよね。嬉しいことだ。

担保が無いからこそ「人を信じること」に意味と価値がある。担保があるならそれは「信頼」ではなくただの「取引」だ。

僕は誰とも「取引」するつもりはない。僕は僕という人間を差し出すだけだ。相手がそれにどう応えるかは相手が決めることで、その決断がどんな形であれ尊重するしかないのだろう。


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