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エルシネ6

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山科清春の雑文集です。
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#小説

鏡の中の歌

1 避難

「《ヨウカイ》が来るぞ!」

 インカムのヘッドホンからランタオの叫ぶ声が聞こえた。

 掘削中の縦穴の中にいたサンフーは、今壁面につきたてたばかりのセラミック製のシャベルから手を放すと、急いで縄梯子を登って、すこし離れたところにある基地車へと向かった。

 古い時代のトレーラーを改造したベースカーの、コンテナ側面の梯子をかけ登り、アンテナ台の上によじのぼる。

 くん、と鼻を鳴らした

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月光の君



序 葡萄牙(ぽるとがる)の酒をたしなむ文章博士(もんじょうのはかせ) おぬしはちと、邪教の教えにかぶれすぎておるようだの。

 釈教をもって国を治める本朝においては、《でうす》とか《ぜす》とかいう邪宗の神の教えは認められぬ、ということになっておる。したがって、この話はこんどの話集には入れるわけにはいかんが、わし個人としては大いに心惹かれるものがある。はるか彼方、外(と

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