見出し画像

きわダイアローグ14 齋藤彰英×鈴木隆史×向井知子 5/6

◀︎◀︎◀︎◀︎◀︎最初から
◀︎◀︎◀︎前へ

5. 水盤に意識を飛ばす(質疑応答より)

///

向井:そろそろ会場にいらっしゃる方々にもお話をお伺いできればと思います。ご質問やご感想などがあれば、ぜひ教えていただけますでしょうか。

来場者①:貴重なおをありがとうございました。すべてはまだ観きれていないのですが、東長寺に来てテキスト読むことで、いろいろ感じたことがありました。新宿という街と四谷という街の間に挟まれているこのお寺が、どこのきわにあるのかなと感じました。なぜここを選ばれて、こういう展示になったのでしょうか。

向井:地形的なことに関して言えば、今ほどおっしゃられたように、ここは四谷と新宿の間になります。山梨のほうから流れてきた玉川上水が羽村の取水場で分かれて、大木戸門辺りが終着点になっていました。そこからは樋の中や地下を通ったり、渋谷川に流れたりしていたはずです。それからこの辺りには紅葉川も流れており、それが靖国通りのほうにも続いていました。それから、新宿という街自体、(今の新宿中央公園あたりには)玉川上水や神田上水が立体的に交差して、滝がつくられたり、景勝地になっていたりします。今回「構築された自然」という言葉を出し忘れていましたが、「人間も自然の一部です」と言うように、コンクリートでつくられた人工物も実は自然。わたしたちがそれを自然だと感じることはあまりないですが、都市に生きる生き物にとっては、コンクリートでつくられていようが、鉄筋でつくられていようが、すべて自然なんですよね。そういう構築された自然によって、歴史の中でも立体的に交差して新宿という街はつくられています。それがすごく面白いと思っています。まず、ここがそういった地形的なきわだということが挙げられます。

それから、この東長寺にはかつて、アートやサイエンスの境界をつくるという目的でつくられたP3 art and environmentというオルタナティブスペースがありました。総合ディレクターだった芹沢高志さんには、「きわにたつ」の公演の際にダイアローグパートナーもしていただきました。大学時代、まだ映像を始める前のわたしがまずこの場所に出会い、映像を始めたわたしがP3の後半を見てきていますが、ここでいつか何かをしたいという思いをずっと持っていたんです。単純にこの場所がすごく好きで、憧れていたということも場所として選んだ理由です。

来場者①:ありがとうございます。新宿という街はコンクリート的な場所としての自然と、生と死であったり、歓楽街だったり、娯楽であったり……と、人がすごく経済活動をしている特出した自然的場所だと個人的に思っていたので、それが言語化されていて気持ちよかったです。

来場者②:まだ作品を見ることができていないので、土日の楽しみにしたいと思っています。今回、水面のきわすれすれのところに石を置きたいという考えに至った理由をお聞きしたいです。自分の中では、水面のきわを、石を置くことでなるべく切り取らずに鏡面として、また、曖昧な営造物として境界をしっかりと見るための行為なのかなと思ったのですが……。

鈴木:まだ映像をご覧になっていないわけですね。映像の内容をザッとお伝えすると、夜の川の上や山の中で、少しずつ露光時間を長くしながら撮影したもののシーンが出てきます。

「きわにもぐる、きわにはく」(2023年)
齋藤彰英
曹洞宗 東長寺 文由閣、東京
記録写真: 矢島泰輔

齋藤:これは今回の映像で初めて行なったわけではなく、それ以前から写真でやっていたのですが、糸で結わえた石を吊るして、照明を当てて撮影したものを、編集上、180度回転させています。そうすると、実際には落ちている、重さのあるものが浮いてくるように見えるのです。今回の映像の中でも、垂直方向に自分がダイブしていくというか、めり込んでいく動きがある一方で、重さがあるものが浮いてくる上下関係の動きをつくれたらいいなと思っていました。そのため、今回、大きな水槽を買って、水の中に落とし込んで、水槽の下から照明を当てて撮影しています。

実際の石の色が出るのって、水に濡れているとき、あるいは研磨しているときなんです。「東京礫層」の際には研磨した石を展示しましたが、今回は映像なのでディテール見せきれない。そういった理由から、石のもっている色を見せるために、水の中に入れて撮った石をひっくり返したシーンがあります。

「きわにもぐる、きわにはく」(2023年)
齋藤彰英
曹洞宗 東長寺 文由閣、東京
記録写真: 矢島泰輔

鈴木:水の苑でテキストの展開の仕方について検討し、柱間に3つずつ置いて、その上に石も置いて……というところくらいまで見えてきたときに、やっぱり水盤の中に意識を飛ばしたいと思ったんです。どうせならそっちにも石が欲しいなと。そのときに齋藤さんの石を吊るす作品について思い出したということ、それから単純に、完全に水の底に置いてしまうと、寺の設えなのかわからなくなってしまうという事態を防ぎたかったことから、ギリギリに浮かせてみようと思った次第です。

今日の話をすると、実は結構水が蒸発して、朝と比べると水位が1センチ近く減っているんです。展示前に試したときから疑わしかったのですが、やはり間違いなく減っていました。ギリギリに設定した石は、昼過ぎ頃から本当に浮いてきちゃうんです。水の中に入っていると完全に見えなくなる、アクリルでできた円筒形の脚を入れているのですが、水面から出てきちゃうとかっこ悪い。でも脚のサイズを落とすと、朝の段階では石が水に浸かってしまうので、対応に苦慮しているところです。水盤の下が水勾配を取っている関係で、置いている石の場所によって、時間と水位との関係がそれぞれ違う。今日の印象からすると、真ん中の白い石は、午前中から昼過ぎくらいまではものすごくきれいでした。ただ、蒸発自体は自然なことですからね。

「きわにもぐる、きわにはく」(2023年)
テキスト:向井知子、空間構成:鈴木隆史、石:齋藤彰英
曹洞宗 東長寺 水の苑、東京
記録写真: 矢島泰輔

齋藤:お名前が刻銘されているブロックに水が入ることで、表面積が増えることも関係あるのでしょうか。

鈴木:変わると思いますが、やっぱり表面積が大きいからでしょう。それから、風もかなり抜けますし。

向井:お寺の方も気にしてくださって、「ホースか何かで水を入れましょうか」とも言ってくださいました。でも鈴木さんもおっしゃったように、蒸発は自然現象ですしね。

来場者②:制作の内輪の話も聞けて、面白かったです。午前中の水の高いときに観に行こうと思います。

「きわにもぐる、きわにはく」(2023年)
テキスト:向井知子、空間構成:鈴木隆史、石:齋藤彰英
曹洞宗 東長寺 水の苑、東京
記録写真: 矢島泰輔

///

冒頭記録写真:矢島泰輔

///

▶▶▶次へ






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?