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白の国

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#小説

【小説】 見果てぬ夢より 

【小説】 見果てぬ夢より 

 焦りが小さな虫の大群ように常に駆け巡っている。それは座ったままの自分を立ち上がらせようとしたり、仕事をしている自分には囁きかける。

そんな事をしている場合か、と。

 日当たりの良いマンションの一室に、夕方にも関わらず一際暖かい陽光が満ちている。熱を持つ光は、リビングに並んだ作業台に向かう佐々埼圭一を容赦なく堕落へと誘っていた。机に広がる紙や鉛筆から避けるように置かれたペットボトルの水を掴み煽

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【立ち読み】透明な境界

【立ち読み】透明な境界

(中略) 

鳥の羽ばたきとせせらぎが聞こえる。まぶたの裏でも、ぼんやりとした光が、自分を包んでいる事がわかる。底のない安心感に身を任せ、蓮城珠華は思いまぶたを開けた。白いベットの上、部屋の充満する光は遠い記憶の中で眩く差し込む日の光より白い。家具を含めて白で統一されているせいで、まだ微睡の中にいるような気持ちになる。
 唯一と言っていいほど、色があるのは一方の壁の大半を占める窓だけだった。大きな

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