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ネガティブな私の居場所

私は、ポジティブで楽観的な性格だ。

自分でもそう思うし、
そう見られることが嬉しい。

いつも明るい!前向き!人生楽しそう!
悩みなさそうだね!

よく言われることだ。

でも私の中にも「ネガティブ」はいる。

私は今まで
自分の中のネガティブな感情を
避けて生きてきた。

人生で初めて、真正面から
自分のネガティブと向き合うことになった時
それが不妊治療だった。



●ポジティブこそ正義

そう思って生きてきた。

幼少期、
母からよく言われたことがある。

「ママは泣く子は嫌いだよ」
「人前で泣くのはみっともない」
「泣かなかったね、偉いね!強い!」

泣かない
悩まない
つらい出来事からすぐに立ち直れる
いつも笑顔でいる

いつの間にか、これが私の
理想像になっていった。


「寝たら大体のこと忘れちゃうよ」

そう人に言ったことが何度もある。
自分に言い聞かせていたのかもしれない。

口に出すことで
そうなれた気がしていた。



●私を変える最初のきっかけ

それは会社の先輩の言葉だった。

入社当初お世話になった先輩と
数年ぶりランチに行った時のこと

「最近どう?」なんて会話から
新しいプロジェクトについて話した。

「入社当初から思っていたけど、
 キツネさんって本当にパワフルだよね!
 どうして常に前に進めるの?」

という先輩の問いに

「先輩こそ、いつも明るくて、笑顔でキラキラしていて!疲れた顔みたことないですよ!」

と答えると、先輩は言った。

「でもさ、私は
 そうじゃない私も知っているじゃない?」


その言葉が
私を変えるきっかけ。

いつも明るく笑顔
周りからもそう見られている先輩が

自らネガティブな一面を見せている姿が
とてもかっこよく見えた。

先輩が人間味で溢れていて、
みんなに慕われている理由がよくわかった。

いつも完璧な人って素敵だけど
たまに眩しすぎる。

弱さや苦手も見せてくれる人の方が
親しみやすく、信頼できる。

私もこうなりたい
自分の弱さも受け入れて
人に見せられるようになりたいと思った。

でも、すぐに変わることはできなかった。



●ネガティブな私はどこへ?

私の中にもネガティブはいる。
でも、受け入れることができない。

私は、私の中から
ネガティブを排除しているのだ。


ディズニー映画「インサイド・ヘッド」でいうと
完全に「よろこび」タイプだ。

「かなしみ」「ムカムカ」がでてくると
気づかないふりをするか、追い出す。

気の合わない友達がいる飲み会には行かないし
嫌なことがあると
楽しいことを考えるか、旅行で現実逃避をする。

最速でその出来事から逃げたい。

だから仕事では
誰と働くか、が成果に影響するし
悲観的予測がとても苦手。

悲観的予測(もしこうなったらどうしよう)と
施策を考えていると
完全に思考が止まってしまう。

もし、社員が急に辞めたら?
もし、大雪が降って休業になったら?


そんなことを考えていると
ネガティブな気持ちになってきて
頭がまわらなくなる。

そんな時は
こうなったらいいな、と
ポジティブな思考回路に変換したり

悲観的予測が得意な同僚に
相談したりしている。

そうやって私は
自分がネガティブな感情になることから
徹底的に逃げて生きてきた。



●ネガティブと
 向き合うことになった日

不妊治療を始めた当初も
ネガティブから逃げていた。

「そんなに焦ってない」
「まだ若いから時間ある」
「新婚生活もまだ楽しみたいから丁度いい」
「ずっと夫婦ふたりの生活も楽しいよね!」

そんな言葉をわざわざ
口に出していた気がする。

しかし本音は
1日でも早く、妊娠したい。


不妊治療を受けているのだから
これが当然の本音。

体外受精のステップに入ってから
私のネガティブは制御不能になる。

これって、最終ステップだよね...
体外受精でダメだったらどうする...
母親になる資格がないから妊娠できないのかな...

そんな考えと
向き合わずにはいられなかった。

今まで蓋をしていた感情は
溢れ始めていた。

そしてついに
仕事にも影響が出始めた。

私の仕事は、
発達障害の子どもと家族を支援する仕事。

新しいサービスを考えるため
会議をしていた時のこと。

「母親向けに、こうしたらどうでしょう?」
と提案すると

「母親っていうのはね」
という切り口で、
お子さんのいる同僚が母親視点の意見をくれた。

今までの私だったら
当事者の意見として積極的に取り入れていたし
むしろ自ら取りに行っていた貴重な意見だ。

でも不妊治療をしている私は
「母親っていうのはね」という言葉に
数秒間、フリーズしてしまった。

(あなたは母親じゃないから
 わからないと思うから、教えてあげるけど)

「母親っていうのはね」


と聞こえてしまったのだ。

その瞬間、
ああもう仕事と不妊治療を両立できていないな。
そろそろ限界か..と感じた。

私はこの仕事をする上で
自分が幸せであることを一番大切にしている。

人を支援する時
自分を犠牲にしすぎたり、不幸だと
(私の性格上では)人を幸せにすることができないと思っているから。

だから私は
この出来事をきっかけに

自分の「ネガティブ」と向き合うことを決めた。



●初めて自分のネガティブを人に見せる


相手は、夫だ。

仕事に影響が出始め、退職を決断した。

結婚当初から
「いつでも仕事辞めていいし、続けたいならもちろんそうして。両立できるように協力するよ」と言ってくれていたので話しやすかった。

お気に入りのお店で食事をした後、
私から切り出す。

「ネガティブな話していい?」

仕事でこんなことを思ってしまって
もう辞めたい。

仕事のクオリティが下がっている以上
辞めるべきだと思ってる。

こんな自分が嫌い。
不妊治療を始めてから、
自分のことがどんどん嫌いになってる。

あなたの好きな私でもなくなっているよね。

あなたの好きだった私は
ポジティブで、行動力があって
前向きな私だったよね。

その私はもうほとんど
いなくなっちゃったの。

私の中には今、ネガティブがたくさんいてね、
人を幸せにしたいと思える
心の余裕がなくなってしまった。


夫は言った。

「ネガティブなキツネは、
 結婚する前からいたよ。

 ずっと俺の知っているキツネだよ。」


「子どもが欲しいのにできなくて、
 毎日の不妊治療も
 本当に頑張っていると思うよ。

 その状況で子どものいる家族を支援をするって
 ネガティブな感情にならない方が難しいよ。

 それに、ネガティブな感情って誰にでもある。
 みんなそんな自分にうんざりしたり
 居酒屋で愚痴こぼしているんだよ。

 キツネはあんまりそういうこと言わなくて
 それはすごいと思ってるけど

 ネガティブな気持ちも
 共有していいのが夫婦だよ。

 ネガティブなところも好きだよ。
 だから見せないようにしなくていいよ。」

私は初めて
「ネガティブな私」の居場所ができたと思った。


今まで居場所がなくて
登場してもすぐに追い出されていたネガティブは
初めてそこにいることを認められたのだ。

夫のこの言葉をきっかけに
不妊治療をしていることを
夫だけでなく友人にも話すようになった。

友人に話す時は
「のんびり挑戦してるから、元気だよ(^^)」
が口癖で

ポジティブな話し方しか
できなかったけど

それでも
話すことができるようになったのは
私にとって大きな進歩だった。

私は少しずつ、確実に
ネガティブな自分を
受け入れられるようになっていく。


●今の私

不妊治療のことを話していた友人に
妊娠の報告した。

私はこの時の友人の反応に驚く。

「ずっと不妊治療つらそうだったもんね、
 頑張ったね!」

私って
つらそうに見えてたんだ。
知らなかった。

「つらそうな私」でも
みんな今までと同じように
友だちでいてくれたんだ。

ネガティブな私って
友人にも受け入れられていたんだ。


ネガティブな私の居場所は
ここにもあった。


どうやら
「ネガティブな私」を
受け入れられなかったのは
私だけだったみたい。

私だけが
ネガティブな私を嫌いで
排除し続けていた。

夫や友人は
ネガティブな私を

ずっと前から知っていたし
受け入れてくれていた。

そのことに気づいてから
自分の感情と
素直に向き合えるようになった。

今ではnoteという
不特定多数の方に見える場所で
ネガティブな自分をさらけ出せるほどだ。

暗いとか、
ネガティブと思われることを
何より嫌がっていた前の私からは
考えられないこと。

「イライラする」
「不安な気持ちになっちゃった」
「昨日の夜は眠れなかった」

そんなことを
夫に話せるようにもなった。

口に出すことも嫌だった言葉たちだ。

「ポジティブで楽観的な私」も本当の私。
ちょっと無理して
理想の自分でいることも
楽しかった。


でも、ネガティブも含めて
自分の感情に正直に生きる方が
居心地がいい。


「こうありたい」よりも
これも私、それも私。と今では思える


そこに理屈が通っていなくても
私の人生だからそれでいい。

私の人生は前より少し
柔らかくなった気がする。

朝から夜まで活動している私も
急に旅行にいく私も

人を支援することに一生懸命な私も
お昼まで寝ている私も

不機嫌な私も
不安で朝まで眠れなくても

妊婦でも
母親になっても

全部本当の私なんだ。


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