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全部コロナのせいだったらいいのに。


不妊治療を始めてから
友だちと距離ができてしまった。


人生で初めて
社会から孤立している・孤独だと感じた。



私が不妊治療を始めたのは
コロナウイルスが日本で発見されてから
半年後のこと。

「ステイホーム」「ソーシャルディスタンス」
と言われ始めた頃のことだ。



友だちと距離ができたことも
孤独を感じるのも

全部コロナのせいだ。
本当にそうだったらいいのに。


●「子どもは授かりもの」

私はこれを「言葉の呪い」と呼んでいる。

不妊治療を始めた当初は
時間に余裕があった。

通院も月5回くらいで
友だちと会う時間は十分にあった。

この頃の私は、
友人に会うと積極的に不妊治療の話をしていた。

・多嚢胞性卵巣症候群について
・自然妊娠が難しいこと
・不妊治療が必要なこと

私なりに
丁寧に説明したつもりだ。

「私の不妊の原因は
 多嚢胞性卵巣症候群で、原因が明確なんだ。」

ということは
特に強調して伝えていたと思う。


それでもよくある反応は

「とはいえさ、妊娠にはストレスが一番の敵っていうし、不妊治療に頼る前にまずは仕事やめてみたら?」
「子どもって授かりものだから、旦那さんと仲良く過ごしていれば自然にできるよ」
「そうやって気にしすぎるのもよくないんじゃない?40代でも妊娠できる時代なんだから、もっと気楽に!」

この3つは
本当によく言われたことだった。


「多嚢胞性卵巣症候群で無排卵」という
医学的根拠があると説明しても

「子どもは授かりもの」
であることを強調されて
不妊治療を理解されないことが何度もあった。


「夫婦の相性がよければ授かれるもの」
「赤ちゃんの方から自然ときてくれる」
「できなければ、そういう運命」

こういう迷信めいた、
なんとなく幼い頃から耳にしてきた言葉は
不妊治療に対する偏見を生んでいるように感じた。


私は実際
こういった反応をされることで

また否定されるかも...
理解してもらえないかも...

と不安や孤独を感じるようになっていった。


そのうち不妊治療のことを
友人に打ち明けることは減ったし、

友だちと会うこと自体に
消極的になっていった。


不妊治療に対する私の考えに
理解を示してくれる人としか
安心して会えなくなっていくのだ。


●不妊治療のことを
 積極的に話していた理由



それはきっと

「だから今日は、
 子どもの話題には気をつかってね」


という私なりのメッセージだったのだと思う。


当時は意識していなかったが
今振り返るとそう思う。


子どもの話題になって
不妊治療のことを話すタイミングを逃して

その会話の中で
傷つくことを防ぎたかったのだろう。

子どもは考えているの?
何人欲しい?
それなら早めに考えなきゃね!
欲しくてもできない人もいるんだから!


こういった話題が始まってから
「実は私、不妊治療しているのよ」と
切り出すのはなかなか難しい。

言えたとしても
気まずい空気になってしまうから。


だから私は

子どもの話題になる前に
不妊治療について自ら打ち明けることで

自分が傷つかないように
防御策をとっていたのだろう。


●子どもの話題が避けられない年齢

夫の友人と会う機会は
極端に減ってしまった。

以前は積極的に会っていたし
家族ぐるみのお付き合いができることを
嬉しく思っていた。


夫は4つ年上で、当時32歳。

最近結婚した方も多く、
子どもの話題になりやすい。


私はいつも自分の友人にしているように
先手を打ちたい。



でも、夫の友人の前で
私が急に

「私、不妊治療をしているの!」と言うのは
あまりに不自然すぎる。


結局、無防備で
その場にいるしかない私は

「子どもは考えているの?」
と聞かれることが怖くなって


夫の友人と会うことを
避けるようになった。


ある日、夫に問われる。

「最近、誘っても
 俺の友だちの集まりに顔出さないよね?

 なんで?
 なんか嫌な経験させちゃった?」


私は「コロナだから」と答える。


「コロナだけどさ...
 キツネの友だちとは会ってるよね
 やっぱり他に理由があるんじゃないの?」


私は「コロナだからだよ」と答える。


それでもしつこく理由を聞く夫に、
私は涙と一緒に本音を吐く。


「そうだよ。本当は違うよ。
 子どもの話題になるのが怖いからだよ。 

 子どもは?って聞かれることも、
 不妊治療について話すことも

 例え何も聞かれなかったとしても

 その反応で自分が傷つくかもしれないって
 思いながら、

 子どもの話題にならないか
 おびえながら、

 ずっとその空間にいるの。 


 こんなこと言わせないでよ。  
 こんな自分と向き合いたくない。  
 言葉に出したくなかった。

 不妊治療を始めてからずっと
 人に理解されないことがストレスで孤独だよ。

 こんな感情と毎回まじめに向き合ってたら
 心が壊れる。

 お願いだから、
 今はコロナのせいだって言わせてよ」

これが私の本心だった。
夫に伝えるために言葉にしたら
今まで気づかないふりをしていた感情が自分に突き刺さる。


「傷ついている自分」と向き合うことに
心底疲れていた時だった。


全部コロナのせいだ。
本当にそう思えたら、どれだけ楽だっただろう。


仲の良かった友だちと
会わなくなっていったことも

夫の友だちとの付き合いが悪くなったことも
全部コロナのせいにしたかった。

コロナのせいだと言わせてほしかった。


●逃げたから、できたこと

こんなにストレスフルな私のことを
応援してくれた友人には本当に感謝している。

いよいよ体外受精なんだ。と言えば
友人自身が色々調べてくれて

理解してくれようとしたことが
本当に嬉しかった。

食事にいけば
カフェイン控えてる?と気遣ってくれたり

通院の都合で
当日に予定をキャンセルすることも
受け入れてくれた。

自分の経験していないことを想像したり
わざわざ調べることって、案外行動に移せない。

本当にありがとう。


「支援者を職業にしている私」としては
理解してもらえなかった相手にも
他の伝え方をしたり、
私が努力できることは他にもあったはず。

理解してもらえない環境を
どうにかしようと
働きかけるべきだっただろう。

でも
「支援を受ける側の私」にとっては
逃げこそが、不妊治療を続けることができた
最大の理由だった。

「理解してくれる友人とだけ会う」
=自分が傷つかない確信がある・安心できる場所にしかいかない


ということに本当に救われた。

「自分の意見を否定する人とは会わない」なんて
自己中心的だと思われるでしょう。

でも私はそうやって逃げることで
不妊治療を乗り越えることができた。

自分の行動を正当化したいだけ。
本当はそれだけのことかもしれない。

「今は自己中心的になろう。
 不妊治療以外のことからは
 つらかったらすぐ逃げていいよ。」

逃げてもいい。

と自分に言えたことが
自分の心を守り
子どもを授かることに繋がったと思っている。



わがままに、
自分を最優先に生きる瞬間が
少しくらいあってもいいんだ。


だから今、考える。


この経験を乗り越えた私に
今できることはなんだろう。



あの時より
心に余裕ができたので

まずは当時の
「全部コロナのせいにしたかった自分」と
向き合ってみました。


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