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KITEN、コットン畑周辺の生きもの調査をはじめます!

お盆を過ぎてもまだジリジリと日差しが照りつける夏の日、起点であらたな取り組みがはじまると聞いて、コットン畑へ向かった。
到着すると、代表の酒井さん、栽培担当の金成さん、それから数人の大人が虫取り網を手に持って、にこにこしながら待っていてくれた。

これから虫取りをして、畑周辺の生き物調査をするという。なんだか子どものころの夏休みに戻ったみたいでわくわくする。と同時に、頭のなかにたくさんのハテナが浮んだ。わざわざ畑周辺に住む生き物を調べるのはなぜ??

「僕たちはコットンを有機栽培してモノづくりをしているけど、この畑が生き物にとって本当にポジティブな環境になっているのかというのは実のところわからなかったりしていて。畑の生物多様性を調査し、現状がわかれば、これからどう行動していくべきか見えてくるかもしれません」と酒井さん。

起点では、農薬を一切使わずにコットンを栽培しているので、夏は次々に生える雑草との格闘だという。学校の校庭ほどある広大な畑を人の手だけで手入れするなんて気が遠くなりそうだけど、自然にも生き物にもやさしいモノづくりが起点の理念なのだ。

それにしても、いったいどこまで誠実なモノづくりを目指すのだろう……、と心の中で驚きと尊敬の念をいだきながら、調査に同行させてもらった。

見えない世界が、見えてくる

この日は、東京大学総合研究博物館研究事業協力者の須田真一先生と日本自然保護協会の岩橋さん、原田さんと一緒に畑の周辺を歩いた。

網を持って歩く姿はやっぱり夏休み感あります

四倉町にある起点のコットン畑の周辺は、ぐるりと小さな山を一周歩けるようになっていて、林道や開けた原っぱ、堤防もあり、さまざまな昆虫や植物を観察することができる。

普段なら20分もあれば一周できてしまう道だけど、この日は5時間かけて歩いた。自然観察のプロの方々と歩くと、3歩歩くと気になる虫や植物を発見するという具合で、なかなか前へ進まない。

ひらひらと舞うように羽ばたくハグロトンボ。ゆるやかな流れの川に生息している。生息環境の減少により、東京では絶滅危惧I類に指定されているそう

昆虫を見つけると、すぐに須田先生が名前や生態、どんな自然環境に住む虫なのかを丁寧に解説してくれる。これが面白くて、つい前のめりで「先生、これは何ですか!?」と、質問攻めにしてしまう。その場にいた全員の目が輝いていた。即座に、深く、広い知識を教えてくれる須田先生は、Google先生よりもすごいと思う。

木陰になっている林道、視界が開ける原っぱ、川が近くに流れる堤防、それぞれ生息する昆虫は違う
遠くに飛ぶトンボや蝶も瞬時に判別する須田先生。飛び方でオス、メスの違いもわかるのだそう!

父親が昆虫学者だという須田先生は、子どものころから昆虫採集が大好きで、研究者になったのだそう。「子どものまま大人になっただけです」と笑う先生と一緒に歩くと、普段なら見過ごしてしまう世界が見えてくるから不思議だ。

葉っぱでひと休みしているムラサキツシジミ、羽が透明なスケバハゴロモ、カトリヤンマやハグロトンボ、ウリハムシなどなど、この日見つけた昆虫はざっと100種類ほど……!

当たり前のことだけど、自然は多様な生き物の住処なのだと改めて気づかされる。人間だけが住みやすい環境を整えていていいのだろうか。小さな生き物の声を聞いているだろうか。そんな問いかけを自分にしてみる。5時間かけて歩いたら、世界がちょっとだけ違って見えたような気がした。

何ができるか考える

起点の畑周辺の生物調査は、春・夏・秋・冬と季節を変えなが調べる予定だ。須田先生いわく、定点観測をすることでその土地の自然環境が見えてくるのだと言う。

特に、トンボと蝶を指標とすると周辺環境を知ることができるのだそうだ。たとえば、近年激減している「カトリヤンマ(トンボ)」がいる水田は、除草剤などの農薬を使用していない健全な田んぼの証。今回の調査では、カトリヤンマの姿を確認することができた。

田んぼは「生き物のゆりかご」とも言われていて、豊かな生態系が保たれ、多様な生き物が生息している。水を張った時期の田んぼには、タニシ、ドジョウ、オタマジャクシが住み、春にはカエル、夏にはホタル、秋にはトンボと季節ごとに顔ぶれが変わる。田んぼのサイクルに合わせて生き物たちが繁栄し、人間の生業と大きく関わってきた。

ところが、近年は農薬を使っていることが多いため、この豊かな生態系を保つ田んぼ自体が減少しているという。

そういえば、子どもの頃はカトリヤンマは珍しいトンボではなくて、家のまわりに普通に飛んでいた。なんなら、赤トンボ(アキアカネ)もオニヤンマもいたっけ。開発などしていない土地なので、大人になった今も実家周辺の景色は変わらないのだけれど、今、その姿を見ることはない。確実に環境は虫たちの住みずらいものになっているのだと気づく。

「この調査がどのようなことにつながっていくのか本当のところはまだわからないんです」と酒井さんは言う。けれど、よい環境を整えるために何ができるだろうと考えることは、きっとよいモノづくりにも、豊かな循環を生み出すことにもつながっていくはずだ。

起点では、須田先生と日本自然保護協会の皆さんと、これからも調査を続けていく。どんな答え合わせが出るのか楽しみだし、これからも追い続けたい。

調査に同行させてもらった日から、今まで目に入らなかった虫たちが気になるようになった。お、あれはチャバネススリ、あれはシオカラトンボだな、と覚えたての知識を出してニヤニヤしている。やっぱり、見える世界が少し変わったと思う。


文責:奥村サヤ



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