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食べ物というのはそんな簡単じゃねえぞという気がします。▶『吉本隆明「食」を語る』


吉本隆明さんという人をつい最近知った。戦後最大の思想家といわれていて、詩人であり、評論家でもある。しかも元は工場勤めのサラリーマンだったとか。なんだかプロフィールがもりもりで混乱してしまうけれど、とにかくすごそう。でも正直、吉本ばななさんのパパって言われた方が「ああ」となる。(キッチン!)

ほぼ日がものすごい熱量で吉本さんにズームインしていることから、どれだけの巨人だったのかが分かる。


そんな吉本隆明氏と、フランス料理について造詣が深い宇田川悟氏の対談形式の本を読んだ。

『吉本隆明「食」を語る』 吉本隆明著 朝日新聞社 2015年


戦後最大の思想家の等身大な考え方が気持ちいい本。いまの時代だと”モラル警察”に取り締まられて書けなさそうなことも、2005年初版のこの本にはあっけらかんと書いてあってスカッとする。

一方で戦後の食糧事情、東京の下町暮らしの様子、九州出身の吉本氏のお母さんが作るごはんなどなど、読みながらセピア色の風景がたくさん浮かんでくるような本でもある。
本文中に出てくるレバカツ…美味しそうだなあ……

以下、お気に入りの箇所の抜粋----✂-----


▶カロリー制限守れる人は信用できない説。私も賛同。

でもこれは僕の実感からの考え方なんですけど、このカロリー制限を守れる人がいたら、お目にかかりたい。これ守っているって言う人は、たいていウソついていると思いますね。絶対できない。


▶食い意地が張っていたという夏目漱石について語る部分。なぜか少し漱石に刺々しい。

ええ、だからあの人も糖尿病であることは間違いないと思いますし、奥さんには言わないでずいぶん食っていたと思いますね。
いや、あの人が食について書かなかったっていうのは、むしろ内緒にしていて、食ってたんだけど言わなかったとか、食ったとか書けばすぐ端からなにか言われちゃうから書かなかったということだったんじゃないかな。


▶最も好きな部分

この地域差というのは、なにに由来するのかというと、それは未開だからとかそういうことからくるんじゃなくて、地域の温度とか天候とか、風土とか風習とか全部かかわってきて、その影響でもって違ってくるんじゃないかと思うんですね。だからわりあいに、偶然その場所に住んでいるかいないかということで、食べ物についての考え方もずいぶん違ってくるんじゃないでしょうか。ある組み合わせの偶然というのが大きく作用しているんじゃないかと思います。だから食べ物は宗教起源だという感じもしますね。食べ物というのは栄養だけで始まったわけじゃない、食べ物というのはそんな簡単じゃねえぞという気がします。

普通、食べ物をを栄養素の観点から見ると「難しい」見方をしているという風に思うけれど、それを「そんな簡単じゃねえぞ」と言うところがかっこいい。戦時・戦後・現代と食卓の風景がどんどん変わっていくのを目にしてきた人の言葉だと思うとなおのこと。

▶おまけ。本文中で紹介されていた太宰治の名台詞すぎることば

「何がおいしくて、何がおいしくない、ということを知らぬ人種は悲惨である」(中略)「せっかく苦労して、悪い材料はは捨て、本当に美味しいところだけ選んで、差し上げているのに、ペロリと一飲みにして、これは腹の足しにならぬ、もっとみになるものがないか、いわば食慾における淫乱である」(『如是我聞』)



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