小説家にしてギタリスト・深沢七郎のリアルすぎる「男色」
いやあ、びっくりしたよ、驚いたあ。
吉原勇さんという人が書いている週刊新潮の記事「深沢七郎と」のことですけどね。
映画にもなった「楢山節考」で知られる作家の深沢七郎にはお稚児さん(男色)の趣味がありまして。
というぐらいだったら、その種の噂話を耳にしていないこともなかったので、やっぱりねと思うぐらいで終わったんですが、今回の記事はその現場をびっくりするほどリアルに再現しているんであります。
ことの始まりは、たまたま手元に深沢七郎の「みちのくの人形たち」という文庫本(中公文庫)があって、それを読み進めていたところに友人から電話がありまして、その本の話をしてみたところが、即座に「それだったら週刊新潮に深沢七郎の連載記事が出てるよ」と教えられたのです。
その話が気になったので翌日、近所のショッピングモールみたいなところに入っている本屋で週刊誌を買い、記事を読んでみたわけです。
読みながら、これはなんだと。
腰が抜けるほどというのもなんですが、仰天してしまいました。
描写が生々しいんです。
「みちのくの人形たち」という作品集にも「秘戯」をはじめとして不気味な魅力の作品が並んでいるのですが、今回の記事はもう、深沢七郎が書いた小説を凌ぐかと思われるほど生々しくてインパクトがありました。
これを書いている吉原さんという人は、毎日新聞の元記者ですが、よほど胆力があるのでしょう。
こういう秘密を、首都圏郊外の山上で小心翼々と田舎暮らししている自分が持っていたならどうするだろうかと考えたら、やっぱり他人には知られたくないような気がします。
私がびっくりしたのは、深沢七郎に男色の気があったということよりも、吉原さんの生々しい描写というか気骨に対してなのです。
深沢七郎の黒々とした男根とか、それが小さくてなかなか勃起しないこととか、それを手で慰めてやる場面とか、同性愛や稚児愛といったものをよくは知らない私でさえも、頭の中がそれこそ黒々ととぐろを巻いて立ち上がってきて、いやあ、びっくりしたあ、驚いたよ、なのです。
おりしも、今年11月25日は三島由紀夫の50回忌だったということもあり、こっちはこっちでやっぱり男色の噂が絶えなかった人なので、盾の会の会長とははたしてどうだったのだろうかというようなことを思っていたりして、なんだか紅葉が色づくようにおのずと男色づいてくるような気配があったのですが、最近ではどうもその三島由紀夫の場合、紅葉が色づくようなことはなかったのではないだろうか、みたいな感じになってきています。
三島由紀夫は深沢七郎が好きで、楢山節考を激賞しているばかりでなく、「からっ風野郎」(監督は増村保造)という大映のヤクザ映画でもふたりで主題歌を担当しています。
深沢七郎の曲に三島が歌詞をつけたようですが、残念ながら映画の主題歌としては使われていません。
余談ですが、この映画で三島由紀夫は大映と専属俳優契約して出演。後で大根役者といわれてしまいました。
さらこの映画、公開時にはなんと映倫から成人映画の指定を受けています。
三島由紀夫と深沢七郎の組み合わせでは、そりゃヤバイよねえというお話です。
話を戻しましょう。
深沢七郎はもともとクラシックギターのギタリストで、日本で初めてクラシックギターにナイロン弦を使ったのは彼だといわれています。
ギターだけじゃありません。埼玉県の田舎でラブミー農場をやったり、東京下町で夢屋という今川焼きの店をやったり、後には風流夢譚を書いて世間を騒がせるなど、ただでさえ破天荒な人生を送った人だったんです。
そうなんです。破天荒な人なんです。ですから今回の記事は、死んでもなお破天荒な人生を演じ続ける深沢七郎の面目躍如、といったあたりで評価しておいてもいいかもしれません。
いずれにしても週刊新潮のこの記事、刺激的なので、コロナ疲れで沈んでいる人にはちょっとした薬になるかも。