北崎朱音

1日1冊、本を読むことを習慣にしています。

北崎朱音

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マガジン

  • 1日1冊読書日記

    1日1冊小説を読む試みを3年続けるための素晴らしい計画を建てた。1000冊読むための最も冴えた方法。名付けて、三年計画である。計画を完了したとき、私は小説を誰よりも愛する、活字中毒者になっているに違いない。

最近の記事

11冊目/松村涼哉『僕が僕をやめる日』

 8時までに起きるところを失敗して、昼過ぎに起きたとしても自己嫌悪に浸ってはならない。後悔は時々、やるべきことから逃げるための隠れ蓑になってしまう。遅めの朝食をとった私は、スマホと無線子機を制限時間付きの金庫に入れて、珈琲を入れた。  今日は、積み本になっていた松村涼哉の『僕が僕をやめる日』を読む。  内容は人物の入れ替わりを軸にしたサスペンスものである。自殺直前に高木に助けられた立井は、高木から「僕の分身にならない?」と提案を受ける。それから立井は自分自身を高木健介と名

    • 10冊目/村上春樹『風の歌を聴け』

       村上春樹の小説を最初に読んだ時、すらすらと読めることに驚いた。彼の書くジャンルが純文学なので文章や、物語のテーマに関して硬派なイメージがあったのだがそうではなかったのだ。また私は、彼の読者に対しては好きな音楽バンドを推すような熱を感じていた。ハルキストと自称するファンは、彼の名前を利用して自分が特別だと言っているように思えたし、あまり本を読まなさそうな人が彼の名前をあげる時は、その言葉の裏に浅い思惑があるように見えた。でもこれは、広く名前が知られる人がもつ有名税のようなもの

      • 9冊目/斜線堂有紀『恋に至る病』

         斜線堂有紀先生が文学フリマに出展すると聞いて、東京流通センターまで足を運んだことがある。今年の五月のことで、記憶に新しい。大好きな作家さんに会える嬉しさに、数日前から私は胸を膨らませていた。だが結論から言おう。私は間に合わなかったのである。私が会場に着いたときには既に、先生の作品はすべて売れていて、撤去作業に入ろうとするところだった。斜線堂先生といえば、小説を出す度に話題を掻っ攫っていく存在であり、その人気は果てしない。好きなのに買えなかった申し訳無さと、絶望で私は動けなく

        • 8冊目/恩田陸『木漏れ日に泳ぐ魚』

           1日に1冊本を読もうと決めてから、ちょうど一週間が経った。本を読むのには、恐ろしく体力がいる。私は一時間でだいたい80ページくらいしか読めないので、一日の大半が読書で終わってしまうのだ。  興が乗ると徹夜で読み耽ることがあったので、きっと大丈夫だろうと思って三年計画を建てたところもあるのだが、実際やってみるとこれは終わることのない拷問では⁉︎と思う自分がいる。目に映る景色から、日に日に色彩が失われていくようである。  終わることのない受験期間の只中にいるようだ。骨をバキ

        11冊目/松村涼哉『僕が僕をやめる日』

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        • 1日1冊読書日記
          11本

        記事

          7冊目/山本文緒『恋愛中毒』

           小説家・山本文緒先生の『恋愛中毒』を読み終えて、恋愛に溺れる人の心の襞を、どうしてこれほど冷静に切り取ることが出来るのだろうと震えた。  同著者の『プラナリア』を読んだのはずいぶん前で、当時に他の作品に手を出さなかったことが心の底から悔やまれる。今回読んだ『恋愛中毒』は、私にとっての毒であり、完全に心奪われてしまった。夜の住宅街を裸で発狂しながら走り回りたい気持ちが、湧き上がってくるようである。だが彼女の新作を読むことは、これから一生、かなわない。  私が惹かれる文章を

          7冊目/山本文緒『恋愛中毒』

          6冊目/紅玉いづき『2Bの黒髪』

           高校生の頃、放課後。家に帰りたくなくて、近所の自動販売機のベンチで時間を潰したことがある。日が沈みそうな薄暗の中、私は一冊の本を開いて目を凝らして文章を追った。肌を撫でる涼風が気持ちいい、夏の日だった。  19歳をテーマにした5人の作家による短編作品集『19―ナインティーン―』を、読む。紅玉いづき先生の短編『2Bの黒髪』が載っているこの小説は、私の宝物のひとつだ。生きるのに疲れたときには、この小説を開くというのが私の中で決まりごとのようになっている。等身大で頑張る女の子を

          6冊目/紅玉いづき『2Bの黒髪』

          5冊目/綾辻行人『深泥丘奇談・続々』

           綾辻行人先生が、長らく第一線で活躍していると知ってはいたが、恥ずかしいことに一度も読んだことがなかった。今回読もうと思ったのは、実家から持ってきた未読の本数冊の中に先生の作品があったからである。  それが『深泥丘奇談・続々』という小説だった。読み終わってから気づいたが、なんとこの作品『深泥丘奇談』『深泥丘奇談・続』に続く連作の3巻目に当たるらしい。まじかー、知っていたら1巻から読みたかった、と思ったが部屋にこの3巻目しかないので、逆に知らなくてよかったかもしれない。前作の

          5冊目/綾辻行人『深泥丘奇談・続々』

          4冊目/原田マハ『生きるぼくら』

           先日から仕事を辞めて、部屋に引きこっている。たまたま配属先が変わることになったとか、たまたま長時間拘束されることに嫌気がさしたとか、たまたまこの先の人生を想像して虚しくなったとか。理由を探せばいくらでも見つかるが、結局のところ私が弱さ故である。  趣味の話題が私に向けられ、小説を書いていることを伝えたのが失敗だった。次の日、私は意を決して原稿を彼らの元に持っていった。私はあなたたちが楽しんでいるだろう日常の裏で、それなりに頑張っているんだぞ! そんなことを私は伝えたかった

          4冊目/原田マハ『生きるぼくら』

          3冊目/本谷有希子『生きてるだけで、愛』

           夏の到来を肌で感じる。もう部屋から一歩も出たくない。私は夏が嫌いだ。照りつけるギラギラ太陽の下、ベランダで洗濯物を干さなきゃいけないのはなんの拷問か。でも生活のためには食べなければならないし、洗濯をしなければならない。身体にべったりと纏わりつく不快感を流したくて、朝からシャワーを浴びた。  エアコンをつけて涼んでいるとようやく頭が働いてきたので、本を開く。本の世界に入るための絶対条件、冷静でいること。意識が本とは別のところにあると、文章が頭に入ってこない。午前中に読書は済

          3冊目/本谷有希子『生きてるだけで、愛』

          2冊目/辻村深月『冷たい校舎の時は止まる(下)』

           高校3年の、雪が降る日。いつも通り学校に向かったが、集まったのは8人の生徒だけだった。他の生徒や先生がいないことを確認して帰宅を試みるが、扉や窓は凍りついたように固く閉ざされている。冷たい校舎に閉じ込められたのだと知った。  昨日に引き続き、辻村深月先生のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』を読む。時間がかかるとわかっていたので、朝から読み始めた。物語の終盤に近づくにつれ重苦しい雰囲気になっていくが、爽やかで希望のあるラストの見せ方はいつも通りの辻村先生だった。私は、先生

          2冊目/辻村深月『冷たい校舎の時は止まる(下)』

          1冊目/辻村深月『冷たい校舎の時は止まる(上)』

           私が生まれて初めて辻村深月先生の作品に触れたのは、高校三年の夏休みだった。受験勉強のために開館時間に合わせて図書館に出かけ、昼ごはんを食べ、勉強を再開する。息抜きをしようと、館内の小説を物色して回ったことを覚えている。  著者順に並んだ棚で、目についたタイトルのひとつが辻村深月先生作『スロウハイツの神様』だった。人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ、という秀逸なあらすじを見て心臓を鷲掴みにされ、勉強を後回しにして読み耽った。私は図書館のある地区の住民ではなかったので本

          1冊目/辻村深月『冷たい校舎の時は止まる(上)』