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11冊目/松村涼哉『僕が僕をやめる日』

 8時までに起きるところを失敗して、昼過ぎに起きたとしても自己嫌悪に浸ってはならない。後悔は時々、やるべきことから逃げるための隠れ蓑になってしまう。遅めの朝食をとった私は、スマホと無線子機を制限時間付きの金庫に入れて、珈琲を入れた。

 今日は、積み本になっていた松村涼哉の『僕が僕をやめる日』を読む。

 内容は人物の入れ替わりを軸にしたサスペンスものである。自殺直前に高木に助けられた立井は、高木から「僕の分身にならない?」と提案を受ける。それから立井は自分自身を高木健介と名乗り、彼の分身として生きていく。

 だが入れ替わりには、事件がつきものである。という読者の期待通り(?)、見に覚えのない殺人事件の容疑者に立井がかけられる。失踪した高木を追う中で明かされる彼の生い立ちに、私は驚かされた。

 無戸籍児、ネグレクト、虐待など様々な社会問題も絡み、彼らの悲鳴が聞こえてくるようだ。学校にも行けず、病気になっても病院に行くこともできない。法務省がすべての無戸籍児を把握しているわけではないし、実際に多くいるであろうそのような子どもたちの声をなんとか聞き取ってあげたい。

 世の中は理不尽で、自分は無力だと思い続ける読書体験。世界は僕たちに興味がないから。この言葉の意味を知れば知るほど、心に杭を打ち込まれる。たしかにここにいるのに、名前を持たず、世界に属さない存在。その哀しみを抱えている人が物語の外の現実にも、必ず存在することが重く、突きつけられる。

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