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7冊目/山本文緒『恋愛中毒』


 小説家・山本文緒先生の『恋愛中毒』を読み終えて、恋愛に溺れる人の心の襞を、どうしてこれほど冷静に切り取ることが出来るのだろうと震えた。

 同著者の『プラナリア』を読んだのはずいぶん前で、当時に他の作品に手を出さなかったことが心の底から悔やまれる。今回読んだ『恋愛中毒』は、私にとっての毒であり、完全に心奪われてしまった。夜の住宅街を裸で発狂しながら走り回りたい気持ちが、湧き上がってくるようである。だが彼女の新作を読むことは、これから一生、かなわない。

 私が惹かれる文章を綴る作家は、無意識的に女性であることが多い。なんでだろうと思っていたが、私は人間の機微を丁寧に切り取ったような文章が好きなのだ。そしてそれは、女性作家の作品に多いように思う。『恋愛中毒』は、本気になりすぎてはいけない相手に、溺れていく主人公の内面を精密に描いている。贅沢をさせてもらっているとそれに抗うのは難しいが、他の愛人たちが次々と離れていき、相手が取り巻く環境も変化する中で、相手との関係を突き詰め続ける主人公には寒気がした。でも、羨ましくもあるのだ。誰かに依存して生きられたら、と私は思わずにはいられない。

 作家という職業は、本当に素晴らしい。生きていた時に書き残された物語を読んでいると、今になって遠い星の光を連想させる。残してくれて、届けてくれてありがとうと、深く思う。

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