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真夜中にsilent

夜のしじまの中でゆっくりと瞬きをした。夜の底は雪が降っているときのようにどこまでも静かで、ふとあのときの会話を思い出した。

「なあ、なんで雪が降ってるときって静かなんか知ってる?」

「え?なんで静かなんだろう?」

「それはね、雪が余計な音を吸収するから、静かになるんやって。」

私が自慢げにそう言うと、あの人は

「ふーん。雪が音を吸収するからか。」

そう言って、しんしんと音もなく降る雪を見ていた。その横顔を思い出したから、妙に寝付けなくて瞬きを何回も何回も繰り返した。いつまで経っても睡眠がやってこないので、一層のこと起きてしまおうと、夜の底にストンと腰掛けた。こういうときは、本か映画かドラマを観ようと闇に順応した眼でテレビの電源を点けて、レコーダーの中を彷徨うけれど「コレや!」と、決めることができなくて。だから目を瞑りリモコンの↓ボタンを押しながら安定のドラムロールを口にする。「ドゥルルルルルルル。(結構リアル)ジャンッ!」と言いながら目を開けると、ドラマ『silent』だった。




『silent』のCMを観て「あ、これは観なければ後悔する。」と思った。灰色が支配する色のない音のない雪の中で、ふたりの静かな会話を観てギュッと心を掴まれたような気がした。そして、これからふたりが紡ぐストーリーを観たくなった。

簡単なあらすじは、八年前、主人公の青羽紬(あおば・つむぎ/川口春奈)の前から恋人の佐倉想(さくら・そう/目黒蓮)は理由も言わずに別れを告げて姿を消してしまう。ある日、紬は偶然街で想を見かけたことをきっかけに、再び彼の存在を意識するようになっていくストーリー。

私は久しぶりにラブストーリーを観るのだけれど、とりあえず、せつなくて。もう涙が溢れては零れてを繰り返した。


雪だね。
雪だね。
積もるかなあ。
積もんないでしょ。
積もるな、これ絶対に積もるやつだ。雪の中でサッカーしたらあれだね、どんどんボール大きくなるね。
うん?
え?だって雪だるまってさあ、転がして大きくして、ふたつ作って、もういっこ乗っけて、ね。
ボールに雪ついて大きくなるってこと?
なるでしょ、雪だるま的に。
なんないよ。笑
え!なるよ、絶対なるよ!雪が、どんどんこうさ、ボールに纏わりついてさ。
なんないよ。笑
(中略)
シー!静かだねえ。雪降ると静かだよね。ね!静かだよね!
うるさい。青羽の声、うるさい。
佐倉くん、静かだねえ!
うるさい。笑 シー!

silentより


冒頭の回想シーン。いいよね。もう完全に思い出って感じで、制服を着た紬と想が初々しいしくて、始まって数分で胸の奥がうわーってなった。記憶に残る好きな人って腹立つことは大体忘れて、良いことだけを思い出してしまうから、とてもズルい。紬も別れを告げられた悲しい記憶よりも、良いことを憶えている。

たまたま朝礼で耳にした声に惹かれたこと。
言葉を大切にすること。
大好きな音楽のこと。
名前を呼びたくなる背中のこと。
スピッツが好きなこと。
よく長電話をしたこと。
クリスマスプレゼントのイヤフォンが色違いなこと。

忘れることができない想いはとても淋しくて、悲しくて、辛くて、取り戻せないことをわかっているのに、また繰り返し思い出す。けれど、時は残酷で前にしか進まないし、あの時のこうしておけば良かったとか、言いそびれた言葉を数えたところで、泡みたいにすぐ消えてしまう。けれど、いつかどこかで出会ったのなら、「元気にしてる?」って声をかけれるような自分でいたい。紬と想もそうであって欲しかった。最後のふたりの会話はあの頃のようにはいかなくて、それがせつなくて。どちらの気持ちもわかるから、観ていてとても胸が苦しかった。来週もこんなに苦しくなるのかと思うと辛いけれど、不揃いなギザギザがギュンと縫い上げられてひとつになるような、そんな一時間になるような気もする。これから紬と想のストーリーは時間を経てまた動き始めた。私は木曜日の夜の十時からの一時間は『silent』に捧げることにして、今日はたくさん泣いたから、明日、目が腫れないか心配になりながら、眠りについた。












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