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「自分が“そっち側”になることには不安があった」 やっこさん26歳(大手IT企業勤務)

やっこさん 26歳
海さんと同じ会社に勤務しており今年入社4年目。海さんの話にあがっていた“唯一退社した後輩”と同期の女性です。

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早期離職者が少ない理由

新卒で入社して4年目になりますけど、同じ部署の同期で辞めてる子って全然いないんですよね。なんでだろうと考えてたんですけど、入社当時からコロナ禍で完全リモートワーク状態だったので、それが大きいかもです。上司が近くにいる環境で働いてないので、人間関係のストレスをそこまで経験せずにここまできたという感じで。社会人になった気がしないんですよ。

でも友だちの話を聞いてると大変そうだなと思います。ベンチャーで働いてる子たちからは「仕事量がめちゃめちゃ多くて大変……」ってよく聞きますし、アパレルで働いてる子は「接客しんどい」って営業職に転職しましたし。まあでも、うちの会社はハードワークを絶対させてこないので、正直“仕事量が多い”ってどういう感じなのかいまいちピンときてないところはあるんですよね。

うちの会社で辞めた子ですか? 同期10人中1人だけです。その子すごいガッツあったんですよね。その分こだわりも強くて、自分のやりたいことができないからって辞めたんです。それでいうと私は上から降ってきた仕事を整理していくことが好きなので、こだわりがあるからこそのモヤモヤみたいなものはないです。

上司と話が噛み合わねー!ってときはありますよ。ただ、基本は聞く姿勢がある会社だからそこまで不満ってわけでもないんですよね。たとえば、あるプロジェクトのチームにいて、“このジャンルなら上司より自分の方が詳しいだろうな”と思うこともあるし、“絶対にA案の方がいいのにB案で進んでる”みたいなときもあります。でも「私の知識だとそれ引っかかるんですけど」ってちゃんと言える環境なんですよね。

意見を伝えた上でB案で進めるんだったら納得いくというか。もちろん私がアホなこと言ってたら怒られるんですけど(笑)。理由もなしに遮断する人はいませんし、なんなら何も言わないことの方が怒られるので。そういう環境なのはめちゃめちゃありがたいですね。

先輩がよく言ってることなんですけど、うちの会社って文化祭みたいなんですよ。社会に上手く馴染めなかった人たちが集まって文化祭をやってるみたいな。実際、私も学校で常に浮いた存在だったので友だちは少ないですし(笑)。それにプロダクトを作るときは「収益のことは置いておいてまずは良いもの作って!」ってよく言われるんですよね。ビジネス周りはベテランの偉い人が頑張ってくれてるので、そこはお任せして、まっすぐモノ作りに挑めてます。

大企業だからこそ 「あぶれる側」になる不安

しんどかったときはもちろんありますよ。先輩に愚痴をこぼしてた時期もありました。

仕事が全然なかったんですよね。大きいプロジェクトがおじゃんになっちゃって、1ヶ月近く仕事がほぼない状態でした。うちの会社って100人必要なプロジェクトに対して120人が配属されるので、あぶれる人が必ず出てくるんですよ。“遊ばせておく人間”っていうのが発生するんです。

そうなると何もしなくても給料がもらえる状態になって……あ、私はこれを無職期間と呼んでるんですけど(笑)。そうすると「あいつは楽してる」と思われないかって周りの目が気になるじゃないですか。だから先輩に「なんでもいいので仕事くれませんか?」って聞いたりして必死にやれることを探しました。

うちの会社って相手を否定するようなことは言わないから逆に怖いんですよね。飲みの席で「私、ちゃんと仕事できてます?」って軽く聞いてみても褒めてくれるだけなんですよ。実際は窓際に追いやられそうになってたのに。たぶん上手くやれない平社員たちは無言でその仕事から外されるんだと思うんですよね。

そういうことを感じてたから、プロジェクトが白紙になったときに直々の上長から「休んでていいから」的なことを言われたときは辛かったです。会社としても人を遊ばせてる方がいいんだとは思いますけど、自分が“そっち側”になることには不安がありました。だから単純作業でも業務を任せてくれる人の方がありがたいなと思っちゃいました。頼りにされてる気がするんですよね。

指摘はするけど否定はしない

そういう時期に話を聞いてくれた先輩がいたのは助かりました。私みたいな若手は定期的に面談してもらってるんですけど、そこではとにかく雑談してます。この間なんて、上司が娘さんと『プリキュア』を観てきたって話で終わったんですよ(笑)。先輩たちは私が本音を言いづらくならないようにコミュニケーションを意識してくれてるんだと思います。みなさんまずは自分から心を開こうとしてくださるので、私も話せてる部分があるのかもです。

否定されないって話をしましたけど、指摘はされるんですよ。思い返してみたら今日も退勤前に色々言われましたし。あれもこれも足りてない!みたいな。でもその指摘はあくまで「私が作った資料」に対してで「私」ではないんですよね。だから割り切れるというか、むしろ嬉しくなるんです。指摘されて「自分の頑張りが否定された」と落ち込むことってないんですよね。すごく言葉を選んで話してくださってるんだろうなという感じがします。

「プロダクトを良くするために意見を言ってるだけであなたを否定しているわけじゃない」というメッセージが受け取れるんですよね。それが私にとってモチベーションにつながっている部分だと思います。

あ、それと、モチベーションで言えば、先輩たちが楽しそうに働いてるのも大きいんですよね。指示を出す側が「自分はこういうのを作りたいからこうしてほしい」って生き生きと話してくれるんですよ。みんなかなりタスクが積まれてるはずなのに前向きに働いてる姿を見てると、自分もあの立場についてみたいとは思います。だからキャリアアップしたいと思うのかも。

うちの会社って東大卒の人もちょろちょろいて高学歴が多いんです。正直その頭の良さがあれば他に行った方が稼げるよねとは思うんですけど、好きなことを仕事にしたくて入社してるから頑張れるんでしょうね。

どれだけ忙しくても、私の資料に対するフィードバックは快く引き受けてくれますし、ちゃんと長文のアドバイスをぶつけてくれたりもします。長っ!と思いますけど嬉しいです。そういう先輩たちを見てるから、自分はここにいても大丈夫だと思えるのかもしれないです。

やっこさんが抱えていた悩みは、以前紹介したAさんの話とも重なります。どれだけ労働環境が整っていたとしても、会社から必要とされなければ気持ちは落ちていってしまう。

ただやっこさんの場合は、この会社でキャリアを積んでいきたいからこその悩みでした。彼女がそう思えるのは、自分の意見を受け取ってくれる姿勢、定期的な面談、“人”と“仕事”をきちんと切り分けた指摘という上司たちの配慮にもありそうですが、何より職場にいる人たちが生き生き働いているという点が大きいようにも思います。

とはいえ、ここまで部下に気を遣うべきだということはかなり乱暴。そうした方がいいなんて誰もがわかっていることです。でもただでさえ手が回らないのに、誰かのために時間を取る余裕なんてない。愚痴だってこぼれるし、人の扱いも雑になることだってある。それが多くの会社における現状なのではないでしょうか。理想的な職場作りは、人員も予算も潤沢な大企業だからこそできることでもあります。

そんな中で、やはり多くの労働者がやりがいを維持しながら同じ場所で働き続けることは難しいのでしょうか。

私は役所で勤務している男性に話を聞くことにしました。“ブラック”とも言われている役所に入社して8年目となる彼ですが、モチベーションの浮き沈みを繰り返しながらも「この道をもう少し続けていきたい」と語っています。

1.「流して生きていけたら楽だったのかも」
Aさん 28歳(小売企業→メーカー勤務)の話

2.「今の会社を辞めたいと思ったことはない」
海さん 29歳(大手IT企業勤務)の話

3.「自分が“そっち側”になることには不安があった」 
やっこさん26歳(大手IT企業勤務)


4.「この職場にいる意義を感じられたんです」 
ゑんさん29歳(役所勤務)


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