見出し画像

「この職場にいる意義を感じられたんです」 ゑんさん29歳(役所勤務)

ゑんさん 29歳
役所の事務職として新卒入社。学生時代からやりたいことが明確にあったゑんさんにとって、現在の職場は第一志望でした。しかし、夢を持って入社したはずが、そのモチベーションは徐々に下がっていったといいます。そんな時期を乗り越え8年目を迎えた現在、ゑんさんはこの道をもう少し続けていきたいと語っています。

このマガジンについてはこちら


第一志望の職場に入っても

今の職場で働き始めてもう8年目になります。自分なりに問題意識をもって志望した職場だったので、内定が決まった時は嬉しかったですね。

でも業務を始めてしばらくは本当に大変でしたよ……。どうやって辞められるかそればかり考えてました。上司からは、電話をとれば怒られる、先輩と仕事を進めようとすれば怒られる、何をしても怒られるんです。僕の席の後ろに上司の席があったんですけど、視線を感じるせいか左の肩だけずっと痛いみたいな(笑)。

今となったら何で怒られてるのかわかるんです。でもなんていうんでしょうねえ……“指摘”というより“怒られてる”と感じるんです。突き放すような言い方っていうか。ダメな理由は教えてくれるので気をつけようと思えるんですけど……あの言い方はこたえましたね。

元々僕は人間関係を上手くやれるタイプじゃなかったので、いくら第一志望の職場とはいえ社会人になることには不安がありました。小中学校時代は自分の好きなことだけを延々と喋る物知り博士くんって感じで常に浮いてましたし、大学時代には人付き合いに失敗してしばらく引きこもり生活をしてた時期もあったぐらいで。留年寸前までいっちゃったので心を入れ替えてどうにか大学に復帰できたんですけど、いやー当時はひどかったです。

そういう人間なので、慣れない社会人生活は本当にきつかったですね。上司に怒られてばかりの日々で、これが本当にやりたかった仕事なのかもわからなくなって。気がついたら「もう給料さえもらえればいい」と割り切るようになってました。そのうち同期も退職していくようになって、自分もどうしようかって辞めることばかりを考えるようになりました。

でも僕の場合、一番きつい時期に動物園や水族館に行くという趣味を見つけられたことが息抜きになれたのでよかったです。それに3年ぐらい続けると気づくんですよね、自分の視野がいかに狭かったかって。仕事を続けていくほどにできないことがどんどん出てくるし、このまま辞めても上手くいかないだろうなって思うようになったんです。

今の方が残業は多い それでも続けたいと思える

でも考えてみれば、それも新しい部署に移って上司が変わったことが大きく影響してますね。それまではこの人みたいになりたいと思える先輩っていなかったんですけど、僕にとってロールモデルになってくれる上司に巡り合えたことで沢山気づくことがありました。部下に対して絶対に偉ぶらないんですけど、いざというときにはビシッとやる、みたいな。指摘するときも頭ごなしではないですよね。非常に理がある説明をしてくれますし、僕の比にならないぐらい忙しい人なはずなのに、そこに手間をかけることを厭わないんですよ。

最近「さっと資料を作るのうまいよね」ってその上司に褒められて。趣味に関するフリーペーパーを作っていた時期があったので職場外での経験が活きたのかもしれません。でもそんなところに自分の良さがあるなんて気づかなかったので嬉しかったですね。そうか、これからこの能力を活かしていけばいいんだって思うと、自分のやってる意味っていうんですかね……この職場にいる意義を感じられたんですよ。

今は僕にも後輩ができたので、上司の凄さを身をもって痛感してるところです。僕はパワハラ反対派なので後輩が何か間違えても責めないようにはしてるんですけど、そうすると放任主義者みたいになってしまうんですよね。背中で見せるタイプになれたらいいんですけど、自分自身に能力があるわけでもないから難しくて。上司を真似てやろうとしてもなかなかできないもんなんですよね。これは初めて部下を持つ人ならどの業界、職種でも苦労するんじゃないかな。

部下もできてタスクは増えましたけど、まだやっていけるなって感じではあります。ここからもっと重い責任を負うことになればしんどいかもしれませんけど(笑)。でも仕事に耐えられてるのも、やっぱり尊敬も信頼もできる上司に出会えたことが大きいんですよね。一番辛かった時よりも残業してますけどやっていけてますから。

雑談はほとんどしない だけど関係の質は上がってる

一部の企業の働き方に対して言われてるような「ゆるさ」は、正直うちの職場には全くないですよ。だからって他の企業に比べて特別ブラックだとも思いません。

何より、自分がいるチームはいい雰囲気だとは感じてますね。上司や後輩とは雑談はほとんどしませんし、趣味のシェアも含めてプライベートの関わりは全くないですけど、同じ仕事をするメンバーとして関係の質を上げることができている感じはあるんです。

今の部署に配属されたとき、上司はまず仕事に対する考え方を共有してくれました。これからどういう方向性でやっていくのかって。すごく助かりましたよ。「とにかくやれ」精神でやっていくのと、事前にテーマを伝えてもらうのとでは、仕事への見通しが全然違いますから。

今までそんなことをしてくれた上司はいませんでした。仕事への考え方を話すことって、すごく難しいことなのかもしれないですね。場合によっては角が立ってしまうこともありますし、さらっといやらしくなく伝えることってなかなかできない。

元々人付き合いが得意じゃなかった僕が、今の職場で8年も続けてこれたのは、趣味を見つけられたことも大きいですけど、そもそも環境が良くならなければモチベーションは保てなかったと思います。「給料さえもらえればいい」という気持ちで働くことはやっぱり辛いものがありました。本当、今のチームに入ってから仕事観は大きく変わりました。

今の仕事は自分が当初やりたかったことそのものではないんですけど、どこかで自分の夢とつながってる気はしてるんですよね。趣味と仕事双方を通じて、自分自身の視野が広げられたことが納得感につながっている気がします。いろいろ迷った時期はありましたけど、今のところはこの道をもう少し続けていきたいです。寄り道を繰り返しながらも、大きな方向性として自分自身の目指す大きな道に進めるんじゃないかなって感覚があるんです。

社会人になると理想と現実のギャップに少なからず苦しむことはあります。しかし、この“理想と現実のギャップ”による苦悩というのは軽く扱われやすい。新人が上司とうまくいかないなんてよく聞く話だし、社会の当たり前とされてきたからこそ、別の理由を作って退職したりもするわけで。

私もまた学生時代には気づきませんでした。ドラマでよく見かける“社会の厳しさ”がこれほど自分にダメージを与えてくるなんて。仕事が自分の将来に直結している感覚が強くなるせいか、人生そのものが暗くなっていくような気分になるのです。

特に組織で働くことに慣れていない時期は、上司の考えをうまく受け入れられず苦しむこともあるし、次第に変化していく自分のモチベーションに動揺してしまうこともある。いろんなことにビクビクして保守的になってる自分が嫌になったり。きっとやりたいことが明確にある人ほどつらいものだと思います。

会社の方針には共感できたとしても、上司や同僚との価値観が合うとは限らない。そことの折り合いの付け方が何より難しく、入社当時のゑんさん
が苦しんでいたところでもあるのだと思います。一方で、現在のゑんさんのチームがいい関係を築いているのは、上司が早い段階から仕事の方向性を示していたことも影響しているのでしょう。私もまた、はじめから価値観を共有しあっていたらあの上司との関係も少しはマシになったかもしれない……と最近よく思います。

そして、ここにいる意義を感じるということが働き手にとっていかに重要であるか。ゑんさんの話からも気づかされるところです。彼の場合、趣味を見つけたことも大きかったとはいえ、これはAさんややっこさんにも共通している点です。

必要としているのだと伝えることで、去ろうとする人を繋ぎ止められる場面はたくさんあることでしょう。どれだけ仕組みを変えてもダメなんだから今の若い人は……と言う前に、もう一度、考え直さなければならないことはあるのだと思います。

おわりにーー未来を諦めてるというけれど


この記事が参加している募集

#仕事について話そう

110,232件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?