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最後の賭けにでるような思いだったーーウェディングプランナーを続けるために会社を辞めた今枝佳奈さんの現在

30代が近づくなかで人生の岐路に立ち、新たな道を切り拓こうとする人たちにインタビューしていく連載「それでも夢を追う理由」。5人目は、フリーウエディングプランナーとして活動している今枝佳奈さんに話を聞いた。

今枝さんはブライダル企業のウェディングプランナーとして5年半勤め、昨年1月に独立した。仕事は順調。フリーランスになったことでやりたいことを叶えられているという。元々出世欲が強かった彼女は、会社員時代から優秀で昇進も早かった。一見、順調なキャリアアップに見える。しかし、管理職になった先に大きな挫折があった。ウエディングプランナーには向いてないとすら思い、逃げ出したい時期もあったという。けれどもその挫折によって自分の人生を改めて見つめ直し、今があると語る。

出世欲があったはずなのに

大学時代は教師を目指していたんですけど、就職活動中に新郎新婦のドキュメンタリー番組をたまたま観て、「ブライダルの仕事やってみたい!」と思ったんです。親からは長く勤められる職業に就くことを望まれていたので、「公務員になればいいのに」なんて言われたりもしたんですけど。私は自分の感覚をすごく信じてるところがあるんですよね。親に何を言われても突っぱねて、ブライダル業界に就職しました。

右にいるのが今枝さん。独立後にプランニングを担当した新郎新婦から呼び出されファーストバイトに参加(今枝 佳奈さんのInstagramより)

ウエディングプランナーの仕事自体はやりがいを感じていましたし、職場もいい人ばかりで大好きでした。でも27歳になったぐらいだったかな。仕事が辛いと感じるようになって、現実逃避のような気持ちで転職サイトを見るようになってたんですよね。

私は管理職という立場に向いていなかったんです。元々出世欲があるタイプだったので評価されたことはすごく嬉しかったですけど、とはいえ想像以上に早い昇進でした。肉体労働で土日稼働も多い仕事なので、入れ替わりが激しい業界ではあるんですけど、それでも早かったなと思います。当時の私にとって管理職という役割は大変でした。

それまでは接客に専念できていたのが、管理職になれば後輩の育成や採用といったことまで意識を向けなければならなくて。本当はもっと1組1組丁寧にプランニングしたいのに、他のことに時間が取られてしまう。

それに組織で働くと色々なしがらみも出てくるじゃないですか。そうすると「もっとこうしたいのに」という気持ちが湧いてくるんですよね。でもそれをなかなか実現できない。やりたいことが目の前でどんどん通り過ぎていくような感じで。そのうち「何のためにこの仕事に就いたんだっけ?」と考えるようになっていました。

そんな最中にお客様から厳しいご指摘をいただいて。明らかにプランナー側の準備不足が原因だったのでかなり胸にきましたね。これだけのことですらコントロールできない自分は、この仕事に向いてないんじゃないかと自信を失いました。

最後の賭けに出るような思いで会社を辞めた

でも逃げたい気持ちで転職先を探したところで簡単には見つからない。プランナーになると決めたときのビビッときた感じが全然ないんですよね。そうやって職探しをしていくなかで、やっぱり自分はプランナーの仕事がしたいんだと改めて気づいて、独立を考えるようになったんです。

もっとお客様と信頼関係を築いた上で、自由な結婚式の形を提案したい。自分のやりたいことをとことん突き詰めてそれで上手くいかなければ諦めようと、最後の賭けに出るような思いで会社を辞めました。

会社員として偉くなりたいと思っていたタイプだったので、独立なんて自分でも驚きでしたよ。でもいろんなことを経験してみることで自分が本当に欲しているものに気づかされることもあるんでしょうね。

当時まだ結婚したばかりでしたが、それでも夫は「好きなことやったらいいんじゃない」と言ってくれました。一歩踏み出すときに信頼している人がそばにいてくれると心強いです。彼の存在が私を後押ししてくれたようにも思います。

自分の親や向こうのご両親に話すのは緊張しました。フリーランスって説明しづらいというか、金銭的に不安定な職業というイメージもあると思うので。でもきちんと話してみたら最終的には賛成してくれました。あとは退職した後もなんだかんだどうにかなっているので安心してるのかもしれません(笑)。

競争が激しい業界で“やりたい仕事”をやるために

フリーランスになったら働き方が大きく変わりました。会社員時代は結婚式の案件を月6件抱えている状態でしたが、今は多くても2件。その分一組一組に時間をかけられるようになりました。式場選びからカメラマン・ヘアメイクなどのチーム作りまで、お客様の意見を聞きながら一からディレクションできることが何より嬉しいです。会社にいた頃はある程度形が決まったところから肉付けしていたので、そこはフリーランスとの大きな違いですね。


ありがたいことに仕事がなくて困ったことは今のところありません。独立してからは、会社員時代に知り合ったヘアメイクさんやカメラマンさんの伝手から仕事をいただいたり、気になるフリーのプランナーさんにDMでアシスタントを申し込んだりして、少しずつ仕事が増えていっています。フリーなので収入面で不安定なところはありますが、今は会社員時代よりも時間に余裕がありますし、収入も仕事量に見合う金額をいただけています。

独立して思ったのは、自分は今後どういうことをやっていきたいかっていう軸をはっきりさせておくことはかなり大事なことだなということです。

意外とプランナーにも「いい結婚式にできたらOK」と漠然に考えている人は多いんです。でもそれだとなんでも請け負うようになってしまって、式場で働くのと変わらない案件ばかりがきてしまう。安価な案件の依頼が集中して、時間にも追われるし、収入も不安定になりやすい。だから結局思い通りの結婚式を作れなくなってしまうんです。フリーランスとしてやっていくならプランナーとしての信念は持っておく必要があるなと思いましたね。

とは言いつつ、私もまだまだなので今が頑張りどきです。理想はお客様から直接依頼をいただくことですが、フリーのプランナーは競争が激しいのでなかなか難しくて。いつか依頼をいただけるように、まずはひとつひとつの仕事と丁寧に向き合って、お客様の信頼を得られるプランナーになりたいですね。

入社したての頃は社会人としての地位を早く固めなきゃと焦っていて、だから早く偉くなりたいと思っていたんです。でも今は長い目で見た時に自分がどうありたいかということをすごく大事にしたいなって。そう考えるようになったのも、会社がいろんな経験をさせてくれたおかげですね。感謝しています。


今枝佳奈さん
大学時代は英語教育を専攻。教師を目指していたが、就職活動中に観た新郎新婦のドキュメンタリー番組をきっかけに、結婚式の魅力に心奪われてブライダル業界に就職。地元軽井沢で3年半、群馬県高崎市で2年で勤務後、2023年よりフリープランナーとしての活動をスタートさせた。現在は、軽井沢を拠点にウェディングをプロデュースしている。
Instagram:@_kana.wedding_


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