I May have LOST the world -5月の青い空-
急に君が夢に出てきて焦った。
涙の流れなかった別れから、もうすぐ2年半。
あの日に出てこなかった涙は、しかし、次の夜明けに一気に吹き出した。
出会ったときの真夏のワンピースを着て、「ばいばい」と手を振るあのひとの夢をみて、
真冬の朝にだらだらと泣きながら目を覚ましたのだった。
あれから年月を経て、僕は変化のないまま、また、それを求めることもないまま、
彼女が見たらきっと呆れるだろうな、というくらい何も変わらない生活を送っている。
狭い町に留まり、ルーティンワークをこなし、同じ人々の間に暮らす。
あなたは今、どこでなにをしている。時折、そういう思いを抱いては首を振る。
楽しく、忙しく、幸せに暮らしているだろう。
凛々しく世界を飛んで、いろいろな人に出会って、笑って、怒って、泣いて、
いちばん安らいだ寝顔を、特定の誰かに見せているだろう。
5月の今日は、逆に、冬のワンピースを着て現れた。
(そういえば彼女の服はワンピースが多かった。)
ふわっと広がった黒はワンピースの裾で、
テレビカメラがなめるように、視点は上半身のほうへ移り、
髪の毛を浮かせながら振り向いた彼女は、
「エノキって100円くらいで売ってる?」
となんだかよくわからないセリフを吐いて、いきなり走りだした。
風に乗って走っていく彼女は、びっくりするくらい速くて、
追いつけないよ、待って……
というところで目が覚めた。
傍らの目覚まし時計を引き寄せると、6時前。ちょうど夜明けの時間だった。
さわやかな季節に似つかわしくない、大量の寝汗をかいていた。
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