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歪んだまま冷え固まるもの

12月27日金曜日

市場で買い物。昨日の食事が昼間のファーストフードきりだったので、果物とか元気出そうなやつを買う。野菜やチーズ、ハムは買えない。部屋には冷蔵庫も電子レンジもナイフも無いから。

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市場は果物や野菜、魚、肉、惣菜だけではなかったのが楽しかった。パン屋、チョコレート屋、ケーキ屋もある。外の広場には古本、アクセサリー、布地、写真、洋服。洋服屋はコーディネートしたマネキンも立てていた。

パン屋でマドレーヌを買う。マドレーヌはケーキ屋ではなくパン屋でよく見かけた。モンパルナス駅の売店でも、大きなやつが二個要り一パックで売られていて、そのパッケージが日本のスーパーで売っている甘食に似ていた。

乳製品専門店でヨーグルトを買う。後に知ることだが、スーパーには一人用のヨーグルトを見つけることが出来なかった。大抵、二個か四個か500gくらいのカップだ。

パエリアを買った惣菜屋のおじさんは、ずっと携帯電話を触っていたが、英語が通じて質問に答えてくれていい人だった。翻訳アプリを見せるために彼は私の携帯電話を手に取った。よって、機体が油でべたべたになっていた。

パエリアの容器やヨーグルトの瓶はもう一度持って行くと、それに買った惣菜やヨーグルトを入れて売ってくれるようだ。惣菜屋のおじさんに聞いた。

惣菜屋のおじさん、いい人だったけど、本格的なタイ米を使った冷たいパエリアは、食感が固茹での豆だったよ。ヨーグルトは、持参したポッキーの箱から紙スプーンを作り、すくうところにヨーグルト瓶の蓋を剥いで、その箔を巻いて食べた。洋梨、オレンジ、柘榴は夜にまわすことにして出掛けた。

トラムに乗って市立図書館へ。最寄り駅で降りたで直ぐのはずだが、見つからない。

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入館。見学。

DVD、CD、辞典、科学、旅、歴史、宗教、ナント市関連書籍、小説、戯曲、シナリオ、マンガ、児童書。本は読めないが、ジャンルの単語は分かる。コンパクトで通路が広くとられていて、どのフロアも、エレベーターが近くにある間取り。マンガの蔵書は好きなものが多く、申し分ない。

次の目的地へ。途中、道端に座っていたおばあさんが投げキッスをしてきた。彼女の足元にはお金が入った缶がある。誰も盗らないんだな。彼女に持っていた森永ミルクキャラメルを差し出す。チョコレートか? と訊かれたので、自分の分を手本で食べて見せる。おばあさんは身ぶり手振り、英単語を使って言った。こめかみを押さえたり、コレステロール、という単語は聞き取れた。多分、「甘いものを食べると自分は頭が痛くなるしコレステロールがどうのこうの……。だから、やっぱりお金がいい」ということだろう。ベッド、という単語も聞こえたから。私はレジャーの一貫としてお金を出した。値上げ交渉があると思い、まず6セント入れる。あっさりその金額で帰れた。おばあさんは焦らない。私なら焦るな。

6円っっ?! って。

ナント大学を見てみる。すぐ向かいが、でかいホテル。最初はそっちの方を大学だと勘違いしていた分、大学ってホテルより小さいのね、とたらたら歩いていく。

ナント大学の門を回って(ぴっちり閉まっていた)、トラムに乗り、元ビスケット工場を改装した劇場へ到着。併設のレストランは閉まっていたが、バーは賑わっていた。パソコンを開いていた人も数名。夜にはここで音楽のイベントがあるようたが、遅すぎたので止めた。昼間のダンスイベントでもあったら良かったのに。バーの店員に、注文したか? と訊かれた。スタイルを強調したモード系の服にキリッとしたメイクという出で立ちにびびって、出るの? 居るの? と聞かれて、アウト、と私は答えた。「OK」と彼女は去った。

跨線橋を渡る。振り替えれば世界的に最大公約数のデザインの街。ホテルがあるのは、いかにもヨーロッパは、イメージぴったりの街。

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線路は青森の跨線橋から見下ろすのと似ていて落ち着く。

トラムに乗ってナント駅へ。昼間に鉄道会社からストライキ実施を知らせるメールが来ていたので、チケット振替の窓口の場所や構内、ホームを確認。せっかく来たのに、もう無事に帰るために時間を使っているのが、なんだかせせこましい。

トラムで中心地に戻り、夕飯の買い出しにスーパーへ。

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目当てのスーパーが見つからない。私は方向感覚はある方だ。だが、己の感覚を過信するあまり時々ハデに狂う。しかし、入り組んだ迷い方はしない。今居るのは目的地の反対側だからそのまま戻ればいい、くらいの迷い方だ。

夕飯は昨日と同じ、ホテルの裏通りパンスタンドにしよう。カスタードとチョコレートチップを折り畳んだブリオッシュとミント水、帰り道のベーグル屋でトマトとチーズのサラダを買う。昼間、市場でチーズ屋や野菜を見た影響だろう。

今日は通りが盛況。扮装した楽団が演奏中だったし、飲食店はいつも通りちょうどよい混み具合だった。

食料を詰めたペーパーバックに皺が寄る音しか聞こえなくなり、ふと顔を上げるとオープン席のある飲食店の通りを抜けていた。角を曲がればホテルだ。

買い物もトラムも慣れた。私はフランス語を20数単語しかしらないし、英語は超最低限レベル。

「あなたが駄目なのはコミュニケーションが取れてないからじゃないの」

と、言われて、今まで通い続けていた地方の演劇活動から退いたことを思い出した。

一体、私は人とどんな暮らし方をすれば満足できるのか。何故、この一言で切れたのか。

そんなの黙って一人で頑張ってたからに決まってる。コミュニケーションが大事だからこと邪魔しないように、気遣い察しようと、礼儀正しくあれ、優しくあれ、努力は影で、自己表現は外で、できる仕事はしようと。コミュニケーションからの疎外が、自分に深くくい込んだものであると、その定説が公に出回っていること、これについては見限られること。少なくとも、これについては一人で苦しんできた。大人しくしていても、他人は無関心になっていったから、甘えによって切れて暴れたら、私は追い出されるから。

コミュニケーションから疎外されているからこそ、他人は調子良く、友好的だった。

身体の芯が、まるで殴られ続けている鉄棒みたいに、激しい憤りで揺るられている。

自分の中の歪んだところが歪んだまま冷え固まっていくのを再認識させられたような気がする。

夕食後に洋梨を剥いた。ナイフが無かったので、歯ブラシのケースで皮を剥いて、噛って食べた。

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