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こぼれ話

1.初日か最終日か曖昧だ。だが、パリでだったのは確かだ。最終日はほとんどバス移動だったし、ふらふら歩いているときに見つけたから、初日のことでいいと思う。

大学の一棟か病院、もしかしたら美術館だったかもしれない、そんな建物の手前の庭に星の王子様の像が立っていた。門が閉まっていて中には入れず、柵越しに見えた。サン=テ・グジュペリの絵と同じようにカラーリングされていた出で立ちが足を止めた。

だが、後になって、持参したGoogleマップの地図を探したが、サン=テ・グジュペリの記念館関係は見当たらなかった。

2.オルセー美術館に行けば良かった。先週の日曜日、NHKの美術館の番組で白熊とフクロウの彫刻を見て、いい、と思った。白熊のおもむろにすっと伸びた首がいい。おもむろに、と言うような、例えば馬のギャロップのような躍動ではない、ゆったりした動きを表すものはあまり見たことなかったのだ。重たげな太い首が涼しげに伸びている。見たかった。

白熊はよく見かけた。クリスマスの移動遊園地の小さなコースターのパネル。ショッピングモールの中の閉店したマカロン屋のショーウインドウ。ヘンリエッタの『しろくまくんのクリスマス』という絵本。

クリスマスの白熊のモチーフは、その絵本が始めなのだろうか? ヘンリエッタを日本語で調べても、図書館で絵本を借りて著者略歴を探しても見つからなかった。

3.クリスマスは色んな動物のモチーフを見た。トナカイはもちろん。だが、鼻と角が欠け、塗装が剥がれたボロだった。

クリスマスマーケットの、ホットワインとラクレットチーズの屋台の看板には白い豚。

そして白熊。

4.歩くのも悪くないが、電車やバスに運ばれながら見る景色の方が好きだと感ずることが何度もあった。

マジックアワーの暮れ空にゴールドに点灯したエッフェル塔、ごったに行き交う自動車と自転車。窓硝子で滲むテールライト。

電車の窓は朝。戸建ての小さな家。映画の広告が掲示されたホーム。枝振りが楕円のシルエットの高い木。三枚羽の白い風車。ハッシュタグ見たいに引かれた飛行機雲。

トラムの窓は昼間。ブルターニュ公爵城、通りのカフェ、パン屋。広場のコースター。シネコンの商標。白光りしているロワール川(実際は土色)。

4-1.追記。凱旋門に向かう路線バスの中、後ろにいた女性二人がシャンゼリゼ通りの歌を口ずさんだ。ネイティブの歌がバスの中で聞けるなんてラッキーだ。

そう思ったのと同時に、彼女達はパリジャンだろうか? とも首を傾げた。地方からの旅行者かもしれないとも。

4-2.ずっと私はマダムと呼ばれた。ドミトリーの管理人から、クリスマスマーケットのヒュッテのマダムから、スーパーマーケットの警備員から、マルシェで試食に洋梨を切って差し出した店員から。その度に違和感があった。慣れていないだけだろう。ただの年頃を表すだけの、あっさりとした生きた外国語に。年相応の敬称を示してもらえることに。

5.丸一日くらい、ぼーっとする日を作れば良かった。

コインランドリーが一番、ぼーっとできたな。

6.シャルル・ド・ゴール空港の手洗いでバックのショルダーがついに千切れた。鞭のように耳のそばで振り上がり、バック本体が床に落ちるのと同時に、千切れた先が打ちつけられた。直せそうではあったし、母親に買ってもらった上に割りといいバックだったんだけど、ショルダーを取り外してゴミ箱に捨てた。「これが本当の肩の荷が下りるってことで」

7.ブーツの踵には出発前と変わらず切り傷のような汚れが定着している。だが、全体的にほこりだらけなので、知らないやもう。

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