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私は車両じゃないから

12月26日昼

外が明るくなってからホテルを出る。駅へ行くがてら昼食へ。

大通りに出て左折。昨日、道に迷って動揺していたところを助けてもらい、ホテルに案内してくれた学生の彼女から「駅から歩いてきたの?」と英語で訊かれて、イエスと答えたら、「Wow」と苦笑されたことを思い出した。

歪んだ鉄板を思い切り踏みつける音が響いた。その瞬間、爪先の地面から、工事現場で軽トラックがバックをする時のような音を小さく鳴らしながら競り上がって来たものがあった。
目の前のカフェの席に座ってたおっさんが引き笑いしてるのを見て、私は早足で先に進んだ。
それは膝くらいの高さのポールだった。ポールの胴には車両進入禁止の標識が貼ってあった。ような気がする。あれ、もしなんかの違反だったらどうしよう? 笑われた恥ずかしさと、違反したかもしれないという動揺、もしかしたから捕まるかもしれないと考えると、急に聞こえたサイレンの音に戦慄した。もしや私か?
しばらく歩くと目の前に、またあのポールが現れた。競り上がりきっていて、同じく車両進入禁止の標識のレッテル。私は車両じゃない、私は車両じゃないから大丈夫。と、動悸を鎮めるように独り言ちていたら、その角に警官を三人見つけて、動悸が激しくなる。やっぱり私か?
警官は私を呼び止めなかった。

途中、広場に小さなジェットコースターがあった。これは常設しているのだろうか? それともクリスマス、年末の間だけ即興で建てられるのだろうか? 即興だとしたらすごいな。

昨夜、ホテルへ向かう途中にあった飲食店の中で一番目立っていた、ゆえに記憶に残ってたハラール認証のファーストフード店へ入る。安くて、思ってたより量が多く、肉とキャベツと紫玉ねぎと、チーズに似た味の、濃い味のソースが巻かれている。フレンチフライが多すぎる。お店のテレビでフランス語のMVが流れている。「Chinese?」と店員さんに訊かれたので、「Japonais」と答えた。テレビを見ながら、自分に似た系統の顔立ちの人をなんとなく探していた。がっかりした。私も、自分と馴染んだものがいいのか。独りでここまで来ておいて。

店を出て駅に向かう途中、結構遠い。玉ねぎの匂いがいつまでも口に残っていた。サイレンが聞こえて来て、またビクッとした。

駅へ向かった目的はトラム(走る音がとても静かで速い路面電車)のチケットを買うためだ。ネットで駅の券売機で買うとあったからだ。だが、駅の券売機はネットで調べた写真と違っていて、何度も仕切り直した。諦めて徒歩で行こうと外に出て、ふとトラムの乗り場を確認すると、見つけた。どうやら、ネットで調べた「駅」は「ナント駅」ではなく「トラムの駅」のことで、私が「ただどちらも街中を走る公共の乗り物」というだけで、「バス乗り場という表現」と混同し、「トラムも乗り場と表現するものだ」と早合点したのだ。ホテルの目の前にトラムの駅があったのに!

トラムの駅(=乗り場、とも言う)の券売機で乗車券を買い、目的地の遊園地の最寄り駅へ向かう。

※次に続く

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