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水着がハイレグすぎたあの夏の日1997

小学生の頃、水泳の授業が一番大好きで、
毎日水泳の授業だったらいいのになぁと思っていた。

水泳の授業の前日になると、いてもたってもいられず、
水着とタオルを早々に準備しランドセルの横にセッティング。
当日の朝になると、しっかりと体温を測って
母親にサインをもらい、
「今日はちゃんと泳げる体調ですよ」という
提出書類も絶対に忘れないようにしていた。

小学校高学年ともなると、
友達がどんな水着をもってくるのか、
どんなタオルを使っているのかとても気になっていた。

私物にセンスがにじみ出ている子に負けまいと、
水着とタオル選びは全身全霊をかけて選んでいた。

幼少期から負けず嫌いで素直じゃない性格だったので、
かわいい水着を着た友達がいると、自分からは絶対に
「かわいい」と言わなかったが、
友達には「かわいいー!」「それどこで買ったの?」
と言われたくてしょうがなかった。

いよいよ待ちに待った水泳の授業が始まる季節となり、
母親が水着を買いに連れて行ってくれた。

これだ!という水着がないと妥協せず、
納得するまで母親を引きずりまわし、店をハシゴした。

この夏はこれで決まった!という水着がようやく見つかった。
私は当時からス〇ーピーが好きだったので、
ス〇ーピーが大きくあしらわれた紺色の水着にひとめぼれをしてしまった。
これで、クラスメイトの注目の的になることは間違いないと確信でき、この水着でアバンチュールな夏を満喫している自分が想像できた。

試着まではしなかったが、サイズが大丈夫であるかタグで確認し、母親に会計をお願いした。

わくわくした気持ちがどんどん高まり、水泳の授業が待ち遠しかった。

そして、高揚した気持ちを抑えきれず、帰宅後、
早速試着をしてみることにした。

おまたの部分が鋭角に深くカットされていて、
思いのほかハイレグだった。

今までの高揚した気持ちが一気に消え失せ、
絶望に変わった。

もう明日は水泳の授業。

買い替えるにはもう遅い時間だった。
想像していたのと違いすぎる。

膝が崩れ落ちるとはこういう場面で起きるのだろうか。
こんなはずじゃなかった。
これじゃ、「岡本夏生」や「細川ふみえ」みたいじゃないか。
小学校の小娘がハイレグ水着を着ているなんて、滑稽すぎる。

当時、「女だらけの水泳大会」というテレビ番組をよく見ていたためか、ハイレグ水着の芸能人が潜在意識に刷り込まれていたのかもしれない。
無意識にそれを連想させ、とても恥ずかしくなった。

これでは、おっ〇いポロリどころか、お〇たポロリになるのではないか。
人生最大の危機が懸念された。

普段、裸体をさらしている親にも見せるのが恥ずかしいくらい、水着を着ている自分がどんどん嫌になってきた。

せっかく楽しみにしていた水泳の授業。

休む選択は絶対にこれまでにしなかったが、
生まれて初めてずる休みをしようかと思ったほど
恥ずかしい思いがどんどん大きくなっていた。

生理を理由に休もうかと頭がよぎったが、
まだ初潮すら迎えていなかったし、
嘘をついてまで授業を休むのか、という後ろめたさが襲ってきて、その選択はすぐにやめた。

やはり授業はなんとしてでも出席したい気持ちは強かったので、ハイレグの上に短パンを履こうかとも思った。

でも、小学生のくせにそんなファッション性の高い着こなしをするなんて浮くに決まっている。それ自体が恥ずかしい行為だと正気を取り戻し、やはり却下した。

ハイレグは恥ずかしいけど、もう選択肢は残されていないと無理やり自分を納得させ、翌日は授業にしっかりと参加することに決めた。

そして、当日。

本当は水泳の授業が楽しみで仕方がないはずなのだが、
ハイレグの水着を着なければならないのかと思うと、とても憂鬱だった。

いよいよ、水泳の授業になり、更衣室で着替える時間となった。

今年初めての水泳の授業。

友達がどんな水着を持ってきているのか気になるところだが、それどころじゃなかった。
憂鬱さが勝っていた。

自分で見るのも嫌な水着姿をクラスメイトに見られるとなると、もっと萎えた気持ちになった。

みんな水着に着替えて更衣室からプールへ向かっている。

私は少しでも水着姿を晒したくないと思った。
タオルを体にしっかり巻いて、みんなより遅れて更衣室をあとにし、水着姿をみられないようにプールサイドへ移動した。

プールサイドに到着して、いよいよ準備体操の時がやってきた。

準備体操の時はもちろん、タオルをとって水着姿で
堂々と体操を行わなければならない。

「私の水着かわいいでしょ、私が一番輝いているでしょ?」と自信に満ち溢れた姿で体操するはずだった。

タオルをとって水着姿をさらすのが本当に嫌になり、
タオルを体に巻いたまま、
「先生、具合が悪いです。今日は休みたいです。」
と言おうか、本気で思った。

でもやっぱりここまで来たのだから、もうここでタオルをとるしかない、
また違う水着を買えばいい、それで夏の再スタートを切ればいい、と無理やり自分を納得させ、ついにタオルをとることにした。

タオルをとった数秒後、起きてはならないことが起こってしまった。
Aちゃんに、

「きりんちゃん!きりんちゃん!」

と驚かれた顔で声をかけられた。

Aちゃんは、クラスの人気者だった。
「Aちゃん、今日あそぼー」と言うと、
「今日は〇〇ちゃんと遊ぶ約束してるから遊べない」と断られ、
「じゃぁ明日遊ぼう」と言うと、
「明日は〇〇ちゃんと遊ぼうって言われてるから…ごめんね…」と
いつも断られていた。
他の友達と遊ぶ予約が1か月先まで埋まっていたのだ。

そんな予約1か月待ちのAちゃんに呼び止められ、

「何?」

と答えると驚愕な返答をされた。


「チ〇チ〇出てるよ!」

と言われたのだ。

補足しておくと、普通は女の子のおまたのことを「チ〇チ〇」とは言わないらしいが、私たちのクラスは男の子女の子関係なく、
みんなの「大事な部分」は「チ〇チ〇」という単語で共通認識があった。
ここでは、「チ〇チ〇」をかわいく表現したいため、
下記より「マドレーヌ」と表記したい。

話を戻すと、
私の「マドレーヌがはみ出ているよ!おさまりきれてないよ!」
と予約1か月待ちのAちゃんに言われたのだ。

人生最大の危機として懸念されていたことが、
無残にも現実となってしまった。

プールに入って騎馬戦もしていないのに。
まだ準備体操さえしていないのに。

私は慌てて、おさまりきれていなかったマドレーヌを
水着におさめた。

幸いなことに、それに気づいたのは
女の子、数人だったと思う。
そのぐらいで被害はすんだはずだ。その程度ですんでいてほしい。
絶対に男の子には気づかれていませんように!
強く祈った。


そのあとの水泳の授業で私はどんな表情をしていたのだろう。

最高の夏のスタートを取り戻すべく、
すぐに別の水着を買いに行ったのだった。


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