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「巫女コスプレでの出社の事務女性を解雇」で見た地獄と地獄

 騒動も終わったので備忘録的に書くのですが、最近あんまりやらなくなった仕事のひとつに、「ベンチャー界隈企業のお守り(おもり)」というのがあります。相談があっても、積極的にはお請けしなくなりました。

 理由は単純で、しょうもない事件でもまだ歴史の若いベンチャー企業の経営者や組織にとっては経験だから、こういう事件こそ顧問やらアドバイザーやらコンサルやらでおカネを頂戴している私のような立場は伴走しないといけないんです。やります。やりますよ。やるんですが… 正直、長くやってると「おい、これ何周めだ」ってのがあるんですよ。プレイボールの瞬間から敗戦処理のマウンドに上がるまで、イメージついちゃうんですよね。私も長らく非モテでしたので、組織内の女性問題は生来のカニアレルギー(甲殻類アレルギー)と並んで苦手なことです。私がそういうコンプラ相談を弁護士差配含め粛々と対応しているように見えるのは、無駄に積み上がった経験値の賜物と言えます。

 雇った女の子に手を付けた、取引先の担当女性とやってしまった、立派な社長室を作り日曜デリヘルを呼んだ、会社のカネで芸能人や女子アナとのコンパの費用を出したなどなど、その類の男性ホルモン多め経営者あるあるは日常茶飯事です。中学高校では技術者の卵にありがちなクラスメートからのイジメや無視を受けて地味メンとして育ち、大学に入ってからもチー牛扱いされ。涙の塩味まみれの学食弁当をトイレの個室で食べて育った有望な経営者ほど、その技術や市場、顧客に対して爆発的に放出するエネルギーはまぶしい。いままで閉じていた空間に溜まりに溜まっていた力こそパワーが一気に放出され、その熱気にあおられて企業が成長するのはそばで見ていて楽しいのです。

 一方、社会経験が無さ過ぎて少しでも周りがちやほやするようになった、売上が上がってイベントに呼ばれるようになった、上場して小銭ができたという状況になると、あっという間に界隈のお財布となるのであります。

 人間、「成功した」と思った瞬間から、うまく滅亡するようにできてるんだとすら思います。

 そして、経営者つながりだからみんな清廉潔白だというわけでもなく、大手起業家イベントにいって夜じゅう経営者仲間と語らったと、人生初めて「大事にされた」経験をしたあとで、後日証券取引等監視委員会に呼ばれて何の話をしていたのか根掘り葉掘り聞かれてしまう事例を見ると、やっぱり周りに経験豊富な大人がそこにいることの大事さみたいなことはどうしてもあるわけですよ。これは危ないなという事例に対して、うまく説得してブレーキを踏まないといけません。経営のカーブを曲がり切れずに経営者が社員一同崖の下に真っ逆さまに落ちていくのを防ぐためにも、目立たないガードレールとしてのジジイの役割は必要なのです。

 私も周辺で痛い目に遭っていたのは当時フリーウェイ社(ツートップ)というパソコン部品販売大手で急成長していた会社の社長さんが筋の悪い芸能事務所とねんごろになって愛人を囲い会社のカネを遊興費に使い始めたところからおかしくなったという経験で、あれは羽交い絞めにして止めればよかったのかといまでも反省するところです。優秀な叩き上げ経営者で、どんなに会社が大きくなっても週に一度二度は店頭でお客さんの動きを見たり、会社の価値は壊れたパソコンを修理するサポート窓口だと見抜いてそこに重要な人材を置いたりと、経営者としての凄さを見てきた分だけ、おかしくなったときはまだガキだった自分としても凄く悲しく残念であったし、そういうことが身近で起きないようセンサーを働かせるのが私の役割だと思うようにもなりました。

 その時期は五橋研究所(LASER5)やAKIAなどいろんな会社や事業、経営者を見る機会がある中で、やはり単にモノを売り買いするのではなく、人の頭の中の力、技術力を使って勝負する会社は私にとって得意な分野となりました。地味な人たちばかりだし、会社として「他にない技術」を売ってくる仕事のほうがやりやすい。あのころ秋葉原でご一緒した人たちは、なんだかんだいまだにお付き合いがありますし、皆さんいまでも優秀で、振り返ると、成功も失敗も紙一重だったんだなと思うんですよ本当に。

 先日も、ご一緒した先が東証で鐘を鳴らしに行ったのですが、付き合いが始まってそれなりに長い先さんがうまいこといって、まあ私も持ち株が大きめの現金になって、満面の笑みでパーティーとかやってるとこちらも嬉しくなるものです。

 ただ、何度かあった経営上の危機のうち、いまでも痺れる、思い出して汗が出るタイプのやつは、一般的にはしょうもないと捉えられそうな事件でした。それが、急成長の歪みあるあるですが社内の風紀や評価制度が揺らぎ、どんどん中途採用で自分よりも高い給料で人が入ってくる中、どうやって社員の士気を保ち、お客様の満足に直結する仕事を品質高く続けていくかという病気のうちの、浮いた変な社員対応という症状であります。

 経営者が非モテで人間関係を築くのが上手くないタイプだと、その経営者のもっている切り札となる能力とは別に、組織を動かしたり、人を見抜いたり、人が起こすタイプの問題へのジャッジが遅れがちだという欠点が出ます。人間すべてにおいて万能なんてことはありませんから、そういう経営者には当然一定のサポートができる番頭がいなければならないのですが、世の中そう簡単ではないのです。

 当初は、営業所が某地方都市にできてそこで働いてくれる中途をたくさん採用するにあたり、経営幹部複数が現地で準備を進めていました。当時、近隣で事業所を閉めるコールセンターなどで働いていた幹部社員氏らがたくさん地元求職していたので、これ幸いとまとめて雇用してしまいました。あのな… 地方都市ってのは怖ろしいんだよ。都会の感覚でやるべきじゃないと思うんです。しかも、その地方都市はカニが名産なんですよ。いつ出張しても、大量のカニ料理が出る。地獄だ。やめろ。やめてくれ。働きに行ったのに殺されるんじゃないかと思うんですよね、毎回。

 後からそういう大量採用の実施を聞いて、私もそれはマズいんじゃないのと思ったのですが、もう採用を出してしまったというのでどうしようもなかったんですよね。嫌な予感しかしません。

 いいですか。地方採用でその地域の事業所なり工場なりを閉めて、地域で同じ会社出身者の求職が大量に出るというのは、もちろん良い面はありますがやはり「なぜその拠点を閉めなければならなくなったのか」をリサーチしてからでないと、その出身者を大量に雇い入れるのはリスクなわけですよ。

 必ず、理由があって撤退するのです。その理由が、不正の温床になりやすいような企業文化であったとか、問題児がたくさんいて管理しきれないほどジョブフローが混乱しているとか、本社の目が行き届かず事業管理者が一城の主に成り上がったと勘違いしてパワハラ茶坊主チャンピオンシップが開催されてるとか、だいたいにおいて不採算になり切らざるを得なくなったわけですよ。

 裏を返すと、往々にして、上手くいっている事業所は閉める必要がありません。もちろん、扱っている商品やサービスが低迷したのでコストセンターである地方拠点を閉めるという副次的な要因はあるかもしれませんが、でも、そこが上手くいっていて利益を出していたら、閉所を避けるか、他の地域へ配置転換するなりの判断をするんです、本来は。

 結果的に、せっかくうまくいっていた技術があったのに、あろうことかそこで雇った社員の手によって無断でその知的財産がごっそり韓国に渡り、刑事事件の一歩手前まで行きました。実際、あれからそれなりの時間が経過しているけど、いまだにグズグズと揉めていて、しかも韓国から御多分に漏れず中国に技術が行ってしまったうえ現地で創業されてしまったので、それなりに利益の出ていた虎の子の事業では廉価な海外参入者に市場蚕食されることがほぼ確定し、利益の上がる別の飯の種を探さなければならなくなりました。強制ピボットであります。

 私も、もう起こってしまったことをどうにかするのは無理だろうと思いながらも現地に行ってヒヤリングに同席したり、青い顔で状況整理している執行役員氏らを叱咤激励したり、連絡が取れなくなったので直接ご自宅に訪問しようということで他社員と一緒にマンションに突撃したり、まあいろいろありました。失点がかさみ、なおランナーが出ているところでマウンドに上げられるのが私たち敗戦処理救援左腕の役割でもあります。地獄ですけど、何度も経験している地獄は「どうにかなるかな」と「これはもう駄目かもわからんね」との目分量が効くので地獄ソムリエみたいになるんすよ。

 ただ、このバッドルートに至るフラグは、事件発生の直前に、社内管理用のサービスに「重要情報に不審なアクセスがあるのではないか」と気づいていた若い技術系の女性社員たちがいたことでした。いま思えば、そのタイミングで対処していればどうにかなったのかもしれません。ところが、大変困ったことに、閉所したコールセンターでメンバー管理の業務を担当し営業所開設でまとめて雇ったうちの一人であったこの女性技術者には奇癖があり、ほっとくと、巫女やらアニメキャラやらのコスプレをして出社してくるのです。何してんだよ。コールセンターのシステム担当だったころからそういう人だったと知ったのは採用した後のことで、その際に採用面接した幹部氏は「確かに服務規程で従業員の着衣の制限があるかしつこく聞いてきた」と証言していたので、まあそういう人だったのでしょう。

 そして、これはまあ結果論なのですが、ある案件でそのコスプレ女性社員が、彼女の上司に当たる大阪から単身赴任させていた事業管理の男性にセクハラをされた訴え出をした際、タイミング悪くその男性も駄目だが女性も勤務態度が悪いというかどで解雇してしまっていました。おい。完全に後の祭りですね。ここでかかわっていたすべての人たちには神のご加護がなく運が悪かった、としか言いようがない。

 取り返しのつかないことになったのは述べた通りです。大事なものは、ほとんど流出してしまっていました。非常に残念であったし、非モテ社長も幹部もみんな呆然としていました。責任の押し付け合いや幹部の退職など、これまた問題を起こした会社あるあるが立て続けに発生し、試練が訪れるのも当然と言えます。これもまあ経験済みの地獄ですが、当事者にとっては笑いではすみません。さすがに私が事業計画を書くわけにもいかないので、いまある研究計画を前倒しし、問題のある事業は切り出したり閉めたりして、商工中金にアポ取って駆け込んで… ただ、資金繰りは経営を鍛える面はあって、残った社員が前を向いて再建に向けて頑張るという流れにもって行けたのは良かったなと思っています。私が上手くそうもっていったのではなく、確かな技術を持つ非モテの秘めたる自信がみなをそうさせたんですが。

 そこから数年、経営者も技術者もみんな頑張って事業転換に成功し、組織もまずまず一枚岩となって、むしろ以前の仕事一本足打法ではない複数事業で利益を出して堂々とした成長路線になったのは怪我の功名というふうにも言えるわけですが、上場審査もたけなわで、管理部門が増強されてんやわんやであったときに、ふと偶然、東京駅近辺のデパ地下で見てしまったんですよ。

 非モテ経営者氏と、例の巫女コスプレ女性が、手を繋いでお惣菜を物色しているのを。そう…。いやあまあ、愕然としましたね。もちろんそれはお幸せにであって、当時は単なるご交際だったのか、ご成婚にまでいたっていたかは存じませんでしたが。

 言われてみれば、かの騒動が終わった少し後に、人事に興味も関心もない非モテ経営者氏が現地に乗り込んでいって手を入れると言い出し、どういう理由かあれだけの問題を起こしていたのにまずまず問題が着地したのも(翌年、ちょっとした簿外債務的な問題は発覚したけど)、会社が問題児だと思って解雇した人材が、実はその組織が何とか成り立つ最後のフックだった、ということになるのでしょうか。

「人事は特に慎重であるべし」というのは、組織を運営する上でも金看板にして飾るぐらいに大事なことで、経営で社員とコミュニケーションを取る方法が制限されつつあるいまは特に、何の仕事をどうお願いしているのか、ジョブフローの内容や本人の意欲・スキルに見合った仕事をしっかりと割り当てられているかというマネージメントの根幹にあるものだと思います。

 で、先日非モテと巫女のご結婚・ご懐妊の発表と、増収増益だかの謝恩会に呼ばれて行ってきました。書いていいというのでこの場に書いてしまいますが、いろいろと修羅を追体験させていただいて、カネもらってる冥利に尽きます。ありがとうございます。株はほぼ売りましたが心はひとつですのでギャラは三倍増でお願いします。

 ただ、カニだけはやめてください。ここは地獄ですか。

(※お断り 事件の性質上、詳細はぼかしています。) 



神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント