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渋谷・宮益坂の美しき隠れ家。珈琲店『茶亭 羽當』

健康診断の帰り道。
渋谷駅から少しばかり離れた場所に足を進める。
喧噪の街並みの音が次第に消えていき、古い民家を吹き抜ける風の音が、昔ながらの趣の音を心地よく鳴らしている。

そんな宮益坂の路地裏にひっそりと佇むのが、珈琲店『茶亭 羽當』である。

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①茶亭 羽當

1989年9月に渋谷の宮益坂下に誕生した『茶亭 羽當』は、30年以上営む老舗の珈琲店だ。
昔ながらの趣をそのまま閉じ込めたようなお店からは、入り口からすでに珈琲の香りが漂っている。
店内に一歩足を踏み入れると、そこにはノスタルジックな琥珀色の時間が流れていた。
私が行った17時頃も、たくさんの人で賑わい、珈琲とデザートに舌鼓をうっている。
混みあう店内であったが、たまたまカウンターが1席空いていたので、そちらへと案内された。

②アンティークカップの並ぶ美術館

カウンターに腰を掛け、視線を上げる。
そこには色とりどりの、コーヒーカップが並んでいた。
それは美しい芸術品の輝きをひっそりと放っている。

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私はその美しさに目を奪われていると、目の前にメニュー表が静かに出された。
私はメニュー表に目を泳がせながら、オススメの羽當のオリジナルブレンドと好物のベイクドチーズケーキを注文する。

③羽當オリジナルブレンドとベイクドチーズケーキ

喫茶店の待ち時間とは、なんと優雅で落ち着くものだろうか。
都内にあふれるチェーン店では味わえない、風情というものがそこには溢れている。
是非とも、羽當に来店する際は、カウンターに座ることをオススメする。
知ってか知らずか、私はカウンターに座れたことを幸運に思っている。

私の目の前では、バリスタが丁寧に直挽きされた豆を、無駄のない洗練とした動きで淹れていく。
そのしなやかな動作は、目を奪われるほどに美しい。
濾されて透き通る珈琲の雫が落ちていく様子を、私はじっと眺めていた。

そうしている間にも、私の前にはお砂糖とミルクが用意される。
そろそろ、だろうか。
羽當では、一人ひとりに合わせたカップを提供してくれる。

私に用意されたのは、青の刺繍が入る、シンプルなコーヒーカップ。
落ち着きのある青を提供された私は、まるで心を見透かされているような感じがして、その観察眼に圧倒された。

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私は目の前に出された珈琲を一口頂く。
ほのかな香りが口の中で広がり、珈琲豆の渋みがと苦味が心に平穏をもたらしていく。

先日、私は大人げなく拗ねてしまった。心の中の葛藤を抱え、激しく後悔もしていたが、その珈琲はそんな私の未熟な心に背中をさすり、涙を溶かすかのように優しい励ましをくれた。

そんな温もりある珈琲の隣に、ベイクドチーズケーキがそっと添えられる。

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シンプルなそのケーキに私はフォークを差し込む。
それはまるで雲を掬うような柔らかさで、私はその一口を頬張った。
チーズの酸味と甘味が調和し、私に爽やかさをもたらす。
珈琲との相性は抜群で、苦味と甘味の旋律に私は溺れた。

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あっという間にお皿は綺麗になってしまった。

もう一品、もう一杯。
メニュー表に手が伸びそうになるが、私はその手を止める。

ここで満足してしまっては、次の楽しみがなくなってしまう。
私はこのお店に再び足を運ぶべく、楽しみをそこへと置いてきた。

次は大切な人と一緒に来たい、そう想いながら私はお店を後にした。

珈琲店『茶亭 羽當』
紛れもない名店。

私はこのお店に出会えたことを、心から感謝している。
ありがとう。


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