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「あ、鹿おじさんだ」 とある少年が私を指差し笑った。 その隣にいる友達らしき少年は、首を…
黒猫のジジは嫌われていた。 ただただ、黒猫というだけで嫌われていた。 例えば、ふと昼間の…
23時55分。 私は意味もなく、踏切に寝そべっていた。 青色の蛍光灯が妖しく光り、備え付けられ…
「あ、死んだわ」 死ぬ直前の声というのは、もっと逼迫して、到底人間の出せるものではない断…
「ねぇ、どうして私じゃないの?」 私は彼に必死に問いかけても、ただただ俯くばかりで、私の…
人は愛を誓いたがる。 それは、互いの額に銃口を向けているのと同じだ。 愛ゆえに自由。愛ゆ…
教室に花が咲いた。 最初はほんの小さな、吹けば飛んでしまいそうな紫色の花だった。 花瓶に差してある花が落ちたのだろう。 誰もがそう思い、気にも止めることはなかった。 次の日、花は2本に増えた。 それに気づいたのは、毎朝1番に登校する図書委員の間宮さんであった。 彼女はその花を見るなり、その紫色の棘のような鋭い花弁に惹かれ始め、図書室の備品置き場にある紙コップを持ってきて、それに水を入れると、その紫色の花に水をあげた。 間宮さんがその花を調べると、どうやらそれは「アザミ」
月の熱に魘され、喉がひたすらに渇く。 「あなたさえ、いなければ」 私は、夜中の2時45分に…
祖父が亡くなった。 つい二週間前のことだ。 あまりの突然の訃報に暁人は驚き、納骨が…
ったく、なんで俺がこんな目に合わなきゃいかんのだ。 つくづく不幸なことばかりじゃねぇか。 …
令和3年9月1日 この日、暁人は珍しく朝7時に起床した。 夏休み中の大学生と言えば、お昼ごろ…
僕には、人の波が視える。 見えるのではなく、視える。 感じるといったほうが近いのかもしれな…
※第一話はこちらから 大正12年8月20日――― 石森玲子は一人、自室で膝を落として、唖然と…
夢を見ていた。 心地よい、なにかふんわりとした夢だった気がする。 私の顔を沈める枕からは、華やかな柔軟剤の香りがして、その心地よさにふにゃりとした意識がまどろみに溶けていき、また眠りへと誘われてしまう。 夢の残り香は、なんて優しいものなのだろうか。 夢と現にあるこの境界は、いずれ儚く消えてしまう煙のような楽園だ。 少しばかり開けた窓の隙間からは、朝露をつけた木々の葉の香りが舞い込み、朝日の白がカーテンレースを映し出して、部屋の中を淡い青に照らし出している。 たったひとと