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短編小説集

99
私の書き下ろした短編をまとめたものになります。
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#短編小説

おじさんの書く描く鹿々

「あ、鹿おじさんだ」 とある少年が私を指差し笑った。 その隣にいる友達らしき少年は、首を…

30

暁を駆ける黒猫

黒猫のジジは嫌われていた。 ただただ、黒猫というだけで嫌われていた。 例えば、ふと昼間の…

28

eVA

23時55分。 私は意味もなく、踏切に寝そべっていた。 青色の蛍光灯が妖しく光り、備え付けられ…

21

黒山羊のハロウィン

「あ、死んだわ」 死ぬ直前の声というのは、もっと逼迫して、到底人間の出せるものではない断…

26

無限交差

「ねぇ、どうして私じゃないの?」 私は彼に必死に問いかけても、ただただ俯くばかりで、私の…

27

食生細胞(胎動)

人は愛を誓いたがる。 それは、互いの額に銃口を向けているのと同じだ。 愛ゆえに自由。愛ゆ…

16

【短編小説】アザミの棘

教室に花が咲いた。 最初はほんの小さな、吹けば飛んでしまいそうな紫色の花だった。 花瓶に差してある花が落ちたのだろう。 誰もがそう思い、気にも止めることはなかった。 次の日、花は2本に増えた。 それに気づいたのは、毎朝1番に登校する図書委員の間宮さんであった。 彼女はその花を見るなり、その紫色の棘のような鋭い花弁に惹かれ始め、図書室の備品置き場にある紙コップを持ってきて、それに水を入れると、その紫色の花に水をあげた。 間宮さんがその花を調べると、どうやらそれは「アザミ」

水仙と月の熱病

月の熱に魘され、喉がひたすらに渇く。 「あなたさえ、いなければ」 私は、夜中の2時45分に…

29

【短編小説】時織りの手紙

 祖父が亡くなった。  つい二週間前のことだ。  あまりの突然の訃報に暁人は驚き、納骨が…

30

【短編小説】んもれ

ったく、なんで俺がこんな目に合わなきゃいかんのだ。 つくづく不幸なことばかりじゃねぇか。 …

45

時織りの手紙(6)

令和3年9月1日 この日、暁人は珍しく朝7時に起床した。 夏休み中の大学生と言えば、お昼ごろ…

19

【短編小説】無拍子な春

僕には、人の波が視える。 見えるのではなく、視える。 感じるといったほうが近いのかもしれな…

28

時織りの手紙(5)

※第一話はこちらから 大正12年8月20日――― 石森玲子は一人、自室で膝を落として、唖然と…

18

まどろみ

夢を見ていた。 心地よい、なにかふんわりとした夢だった気がする。 私の顔を沈める枕からは、華やかな柔軟剤の香りがして、その心地よさにふにゃりとした意識がまどろみに溶けていき、また眠りへと誘われてしまう。 夢の残り香は、なんて優しいものなのだろうか。 夢と現にあるこの境界は、いずれ儚く消えてしまう煙のような楽園だ。 少しばかり開けた窓の隙間からは、朝露をつけた木々の葉の香りが舞い込み、朝日の白がカーテンレースを映し出して、部屋の中を淡い青に照らし出している。 たったひとと