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少女の聖域vol.3|Riho Kurokawa|生暖かく優しい暗闇

 単眼や多眼の不思議な生き物が跳梁跋扈し、血の川が流れる仄暗い世界で、魔法は熟成される。
 異形の少女たちが唱える呪文は、形を得て世の理を壊し、地平を塗り替える。

《少女の聖域vol.3〜魔法大全》会場風景(以下同)

 Riho Kurokawaが描くのは、この世の裏側にひっそりと息づくもうひとつの世界。光のように言葉が降り注ぎ、暗闇から命が生まれる。
 画面の中に多層的に折り込まれた謎を紐解くと、失われた記憶が蘇り、物語が動き出す。
 さあ、思い出してみよう、彼の地の記憶を。

 山が燃え、羽が生えた獣が飛び交う夜、魔女たちは宴を催す。
 ヴァルプルギスの夜は本来、春の到来を祝う祭りであった。篝火を掲げて、葡萄酒を振る舞おう。
 魔法の復権を寿ぎ、魔女たちは祈る。

 赤毛の六姉妹がまた何かを企んでいる。
 彼女たちしか知らない秘密の場所で、魔法陣を囲んでひそひそ話。
 きっとたわいもない悪戯だろうけど、失敗したら大惨事になることは目に見えている。止めるならいまのうち。

 誰にでもとっておきのおまじないがあるから、特別な日に交換してもいい。昼と夜の境が曖昧になる土地で、そっとその耳に囁かれる呪文は、決して誰にも教えてはいけない。
 白い獣と黒い獣が証人になる。

 少女でいることはいばらの道だから、傷つきくず折れることもある。
 そんなときそっと魔女のことを思い浮かべる。いつも傍に寄り添ってくれる黒い影。獣の杖と長い舌の蛇を従えた彼女が発する言葉は、金色の糸のように優しくわたしの傷を癒す。

 目を閉じると浮かぶその世界から吹く風は、少し燻んだ薄荷の香りを含んでいた。遠くで火が焚かれている。
 何に効く薬だろう。魔法の薬だから甘いに違いない。
 白い霧に包まれた白い空に浮かぶ虹色の眼を、ずっと見つめていたい。

 Riho Kurokawaの作品の中で、魔法は目に見える表象となる。隅々まで描き込まれたシンメトリーな構図に、呪術的な意味合いを感じる人も多いだろう。
 少女は彼の地で、忘れられた古の呪文を思い出すのだ。

Riho Kurokawa|画家 →HP
歪で穏やかな世界の記憶、美しい生命の営みを描きます。

高柳カヨ子|精神科医・元法医学教室助手・少女批評家 note
東京上野で生まれ育ち、東京理科大学理工学部応用生物科学科・信州大学医学部医学科卒業。法医学教室でDNA鑑定を専門とした後、精神科の臨床に進む。Bunkamuraギャラリー「新世紀少女宣言」キュレーション/『夜想ーゴス特集』インタビュー/『夜想ー少女特集』評論/『S-Fマガジンー伊藤計劃特集』アーバンギャルド論/パラボリカ・ビス「アーバンギャルド10周年記念展」キュレーション/gallery hydrangea 「『少女観音』~12人のアーティストが描く篠たまきの幽玄世界」キュレーション。
あらゆる時代と時間を超えた少女たちに捧げる少女論「少女主義宣言」をnoteにて連載中。霧とリボン運営の会員制社交クラブ《菫色連盟》にてトークサロン「少女の聖域」を主宰、「少女性」をテーマに展覧会《少女の聖域》を定期開催している。



作家名|Riho Kurokawa
作品名|宴

アクリル・水彩・鉛筆・オイルパステル・水彩紙
作品サイズ|24cm×横19cm
額込みサイズ|33.2cm×28.3cm
制作年|2022年(新作)

作家名Riho Kurokawa
作品名
草陰のわるだくみ
アクリル・水彩・鉛筆・オイルパステル・水彩紙
作品サイズ| 8.9cm×13.3cm
額込みサイズ|17cm×21.5cm
制作年|2022年(新作)

作家名|Riho Kurokawa
作品名|おまじないを教えて

アクリル・水彩・鉛筆・オイルパステル・水彩紙
作品サイズ| 14cm×9cm
額込みサイズ|25.7cm×21.7cm
制作年|2022年(新作)

作家名|Riho Kurokawa
作品名|魔女の肖像

アクリル・水彩・鉛筆・オイルパステル・水彩紙
作品サイズ|8cm×7cm
額込みサイズ|17.5cm×16.5cm
制作年|2022年(新作)

作家名|Riho Kurokawa
作品名|白い幻

アクリル・水彩・鉛筆・オイルパステル・水彩紙
作品サイズ|7.9cm×5.5cm
額込みサイズ|17.5cm×15cm
制作年|2022年(新作)

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