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コンビニ徒歩5分の公園にて

桐山きりやまもみじは考えていた。

「あたしは何のために退治屋をやっているんだろう…」

鳥井とりい家での出来事は心底胸糞悪く感じた。
当たり前を過ごしたかった願いが歪み、果ては化物に変わってしまった。
いや、化物に蹂躙されたのか―オブラートは、人間の形をした化物を間違いなく映し出していた。

どうして丸メガネはマキビを地下室に閉じ込めたのだろうか?―もみじの疑問は大きくなるばかりだった。
それもそのはず、もみじは西日指すリビングで重大なミスを犯していた。
マキビとの関係性を聞かなかったことだ。

「地下室の化物とはどういう関係なんですか?」

今思うとなんでそれを聞かなかったのだろうか。もみじは人間丸メガネ化物マキビの間に入らなかったことを激しく後悔していた。

「脅威生物駆除者は、生命を脅かす可能性のある脅威生物に対して、速やかに退治しなければならない」

あの時もみじは、条文通りに従って滞りなく処理を進めた。それは悪いことではない。
しかし、"速やかに退治すること"は本当に理にかなっているのだろうか?
かなっていなかったとしたら、それは"化物になるまでの過程"を永久に封印する行為に等しいのではないか?

もみじは退治屋の基礎柱に疑念を抱き始めていた。
現に陽芽ひなめは、自分が化物になっていることに気づいていなかった。丸メガネは実の娘に本当のことを言わないまま、"治療"を施すように真備まきびに依頼し続けたのか?

「そんなの、いくらなんでも自分勝手じゃん」
後天性の化物なら尚更である。元は人間であるし、親の責務を果たしていない。
例えそれが"タブー"だったとしても、陽芽に知る権利はあったはずだ。

今日のアイスカフェオレは、いつになくコーヒーの苦味が強い。
もみじはそれを一気に飲み干し、氷だけになったカップをそのままくずカゴへ捨てた。


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