枯れ果てた美しさ
その人は、どこか哀れみを帯びていた。
常夜のネオンのように鮮やかなドレスを身に纏い、艶やかな瞳で僕を見る。
「ひとりにさせないで」
強く腕を握りしめてそう言った。
幾度目の夜更け。彼女が真っ裸になった瞬間、本能的に僕を求めた。
そして僕もまた、彼女を本能的に求めた。お互い必要だったからだ。
最初は骨の髄まで愛していた。
しゃぶり尽くして、ほとぼりが冷めたらまた肉を付けていく。相手のためなら何をやっても怖くはなかった。
そのうち僕は一人になって、気づけば彼女以外の人間がいなくなってしまっていた。
比例するかのように、周りから聞こえる喧騒が大きくなっていった。
「あいつはヤバい」
「やつれてきている」
「付け込まれてるんだよ」
喧騒はやがて目の前にも現れるようになって、ひとしきりに浴びせられるようになった。
「ずっと愛していたのよ!!」
「どうしてそこまでするのさ」
「嫌い」
「信じてたのに」
「変わってしまったんだね」
僕は一体、どうなってしまったのだろうか。
鏡を見ても、眠りについても分からない。
「僕は、どうしちまったんだろうか」
最後の夜、彼女に聞いてみた。熟れた桃色のルージュの口元が妖しく色付いている。
「枯れて、種を植えるの」
耳元でそう囁く彼女は、か細い両腕を僕の首にかけて、溶けて散った。
僕もまた、彼女の中に溶けいったのだった。
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