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みんなで動かない

「◯◯△△さ~ん、2番にお入りください」

やっと一人動いた。名前を呼ばれた御婦人は看護師の誘導に従って2番の診察室に入る。
ここまで何分かかったのだろう。病院はいつも以上に混雑していて、この日は外にまで人がごった返していた。

「いやぁ、相変わらず混んでいますな」
見知らぬ爺さんが隣に座ってきた。

「久しぶりに来たとはいえ、こんなに混んでいましたっけねぇ…」
「さぁ…どうですかねぇ…」
「少なくとも前回来た時よりは多くなっているように思うんだが…」

確かに爺さんの言う通り、早い時間に来たにも関わらず随分と待たされている。少なくとも1時間はずっと座りっぱなしだ。
患者が出てきていないところを見ると、丁寧な診察をしているんだろうなとしか思えないのだが―

勝手に話しかける爺さんを尻目に、受付で順番を問い合わることにした。

その矢先―

「××☆☆さ~ん、2番へどうぞ~」

看護師がドアを開ける。
自分は人混みを掻き分けて、件の診察室へ入った。

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この小説はたらはかにさん主宰企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。

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