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ひみつのともだち

5年生に上がり、3度目のクラス替えがあった。
まりかとひなこは家が近所同士だったこともありお互い顔を見知っていたが、同じクラスになることは一度もなかった。
それが今年、一緒になった。しかも、机も前と後ろの近所同士。ひなこが前、まりかが後ろだ。

まりかはひなこのことを心配していた。
毎日学校指定ジャージを着ているし、髪の毛は寝癖を何日も放置したようにボサボサしていて、お世辞にも身だしなみはかなり乱れていた。そのくせ振る舞いはぶりっ子じみている。あまりにも見るに堪えなくて、クラスメート達はひなこ談義に花を咲かせるようになった。

友達と別れて、まりかは一人で家を目指した。数歩先にはひなこがいた。いつもは親の車に乗せられているのに、今日は徒歩で帰っている。
まりかは、ひなこに勘付かれないようにして黙々と後ろを歩いた。しかし残念なことに、ひなこに気づかれてしまった。

「あっ、まりか」

弱々しい笑みを浮かべるひなこ。血が通っていなさそうな肌と相まって、いつも以上に覇気の無さが醸し出されている。

「後ろ歩いてたんだね、気づかなかった」

まりかはランドセルを背負い直して、ひなこの隣を歩く。
家が近所だからとはいっても、仲が良いわけではないから一緒に帰ることもない。二人並んで歩くのがとても新鮮だった。

「珍しいね、歩いて帰るの」

「うん…今日迎えに来れないんだって」

ひなこの口角が微かに弱まったと同時に少しだけ顔をうつむいた。

「あのね…わたしね、みんなからシカトされてるの」

そんなことはまりかも知っている。というより、この風貌でシカトされないわけがないと思った。
だが、さすがにストレートに言うのは気が引けたので、ひなこの話に耳を傾ける。

「クラス替えして、やっとまりかと一緒になったじゃん?」

「そうね」

「うん…でも、まりかは別の友達がいるわけだよね」

「…まぁね」

相槌を打つまりか。ひなこは申し訳無さそうにこう言った。

「本当はあたしも入りたいけど、入ったらいろいろと面倒なことになるよね…」

「そんなことない!!」

まりかは大声を張った。

「面倒とかそういうのはないよ! ないんだけど…」

ランドセルの肩紐を強く握りしめるまりか。
と、いきなりひなこがまりかの前に出て、後ろ歩きしながら言った。

「じゃあさ! これからは、ひみつのともだちにならない?」

「ひみつのともだち?」

「うん。みんなにはナイショ」

口の前に人差し指を出すひなこ。心なしか表情は明るくなった気がした。

「だから、絶対秘密ね」

これでもかと念を押すひなこを見て、まりかは根負けするように笑った。

「はいはいわかったわかった。今日から、ひみつのともだちね」

「うん。ひみつのともだちね!」

ひなこはそう言って小指を差し出した。まりかも小指を差し出してひなこのそれと絡み合わせる。

「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます! 指切った!!」」

二人は手をつないで仲良く家路に付いた。

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この物語はピリカさん主宰企画「春ピリカグランプリ2023」応募作品です。

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