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物書きナレーターの朗読解釈「ごんぎつね(1)」第4回

物書きナレーターの朗読解釈「ごんぎつね(1)」。
今回は1~3回目でやったおさらいです。
唯一違う点を挙げるとすれば、新たな主要人物が出てくることです。
そこらへんも交えながら解釈していきたいと思います!

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【朗読音声】

 ふと見ると、川の中に人がいて、何かやっています。ごんは、見つからないように、そうっと草の深いところへ歩きよって、そこからじっとのぞいてみました。
兵十ひょうじゅうだな」と、ごんは思いました。兵十はぼろぼろの黒いきものをまくし上げて、腰のところまで水にひたりながら、魚をとる、はりきり・・・・という、網をゆすぶっていました。はちまきをした顔の横っちょうに、まるい萩の葉が一まい、大きな黒子ほくろみたいにへばりついていました。
 しばらくすると、兵十は、はりきり網の一ばんうしろの、袋のようになったところを、水の中からもちあげました。その中には、芝の根や、草の葉や、くさった木ぎれなどが、ごちゃごちゃはいっていましたが、でもところどころ、白いものがきらきら光っています。それは、ふというなぎ・・・の腹や、大きなきす・・の腹でした。兵十は、びくの中へ、そのうなぎやきすを、ごみと一しょにぶちこみました。そして、また、袋の口をしばって、水の中へ入れました。
 兵十はそれから、びくをもって川から上あがりびくを土手どてにおいといて、何をさがしにか、川上かわかみの方へかけていきました。
 兵十がいなくなると、ごんは、ぴょいと草の中からとび出して、びくのそばへかけつけました。ちょいと、いたずらがしたくなったのです。ごんはびくの中の魚をつかみ出しては、はりきり・・・・網のかかっているところより下手しもての川の中を目がけて、ぽんぽんなげこみました。どの魚も、「とぼん」と音を立てながら、にごった水の中へもぐりこみました。
 一ばんしまいに、太いうなぎをつかみにかかりましたが、何しろぬるぬるとすべりぬけるので、手ではつかめません。ごんはじれったくなって、頭をびくの中につッこんで、うなぎの頭を口にくわえました。うなぎは、キュッと言ってごんの首へまきつきました。そのとたんに兵十が、向うから、「うわアぬすと狐め」と、どなりたてました。ごんは、びっくりしてとびあがりました。うなぎをふりすててにげようとしましたが、うなぎは、ごんの首にまきついたままはなれません。ごんはそのまま横っとびにとび出して一しょうけんめいに、にげていきました。
 ほら穴の近くの、はん・・の木の下でふりかえって見ましたが、兵十は追っかけては来ませんでした。
 ごんは、ほっとして、うなぎの頭をかみくだき、やっとはずして穴のそとの、草の葉の上にのせておきました。

文章にすると少し長ったらしく感じますが、音声化するとわずか2分。この2分間で、次の章以降で出る「哀愁感」が引き立ちます。
といっても、文章の噛み砕き方は1~3回目でやったのと殆ど同じです。

・地の文の読みは「言伝感」
・登場人物の動作、景色の状況等の描写は「実況」を意識すること

(新たな登場人物が出てくるシーンはより具体性を持たせるようにします)
・キーワード上部にある点々の意味をよく考えること
(今回は「はりきり」「うなぎ」「きす」「はん」が該当します)

冒頭でも触れましたが、このくだりは主要人物(物語の鍵を持っているキャラクター)が登場します。
人間側の主人公である「兵十」です。
兵十はごんと顔見知り的な間柄ではありますが、心象は正直言ってあまりよろしくありません。2回目の解説では「マイナスなキーワードに引っ張られるな」と書きましたが、それはあくまでごんのキャラ説明に関することです。
つまり、兵十はごんと対を成すキャラという位置づけとなります。

ごんは兵十に対してどう思っているのでしょうか?
次のQで見ていきましょう。ちなみに答えはないです。

Q.次の台詞はどのように解釈できますか?

「兵十だな」

①いたずらのターゲット発見
②顔見知り

朗読だと、①の解釈で読む人が圧倒的に多いです。
「うひひwwwいたずらしてやんよwwwwへへへww」みたいな感じでしょうか。若干ずる賢さを出した読みをしているのも特徴です。

音声版では②の解釈でやってみました。
2回目で取り上げたくだりから察するに、ごんは社会とのつながりを求めていると考えました。その中の一つが人間社会であるとすれば、いたずらを挨拶代わりにしているのかもしれません。

選択肢にはありませんが、イレギュラーなパターンとして。
もし「顔見知りかつ、いたずらのターゲット」という解釈したならば…

ごん「おぉっ!兵十くんじゃあないですかぁwwwww元気~?wwww最近会ってくれないじゃ~んwwwwwwTBS(テンションバリ下がる)だわwwwwwww」

というパリピも引きそうなヤバい奴っていう印象を持たせるのもアリです。

人間側の主役「兵十」

この場面のメイン。新たな主要人物の登場です。
ごんがどうして「兵十だな」と言ったのか。それは、今後の物語にとってのキーパーソンだからです。

そんな彼は、はりきり網を使って漁をしている様子が初登場シーン。
このくだりは「いたずらを働こうとするごんと兵十のバトルシーン」と捉えてください。
点々があるキーワードはりきり・・・・」「うなぎ・・・」「きす・・は、まさに漁の実況。スポーツ中継でも選手の名前や何らかの技を連呼するなどして強調するのと一緒です。
2、3回目で取り上げたテクニックを大いに駆使していきましょう。

ごんの仕向けの場面も同様です。
特に注意したいのが魚とごんの格闘シーン。ある種、プロレスの試合場面に相当するので、実況感をとことん出して盛り上がりを図りましょう。

ごんvsうなぎの最中、兵十がごんに「うわアぬすと狐め」と怒鳴り込んで来ますよね。
その台詞は本当に怒っているのでしょうか?

朗読したことがある人の中には「怯えている」解釈をした人がいると思います。
確かに、ごんは菜種がらに放火してとんでもないことをする狐です。その噂は兵十の耳に届いているでしょう。何を仕出かすか分からない狐だからこそ、関わらない選択をする人間がいてもおかしくありません。

しかし、もし兵十がごんと「顔見知り」だとしたら…
「あぁまた性懲りも無く悪さをしに来たか」と呆れているようにも取れます。
何度も怒鳴り散らしてごんを追い払ってきたのでしょう。しかし本当に頭に来ていたら、ごんを追いかけてその場で殺すこともできたと思うんです。

だから、ごんが逃げても兵十は追いかけることはしなかったのではないでしょうか。

その証拠を提示します。はん・・の木」です。
この点々は、「ごんと兵十が生きる世界の境界線」を表しています。
顔見知りでも住む世界は違います。だからこそ、予め釘を刺す必要があったのでしょう。「こいつらはあくまで違う生き物だ」と。
どうして釘を刺す必要があったのでしょうか。それは、今後の展開をより濃密にさせるために、新美南吉が仕組んだ一種の罠かもしれません。

あとがき

やっとこさ「ごんぎつね(1)」の解釈解説が終わりました!
物語はまだまだ続くのですが、その前に次のセクションを読まないとお話になりませんね。

普段の読みでやっていることを文章化してみると結構難しいもので、それを如何に面白いと思わせるかがポイントだと思いました。
最初は自分でも面白いなぁと思ったのですが、3回目あたりから早くもネタ切れをしてしまいました。
それでも「実況感」は最低欲しい…!!第三者目線の地の文だと特に必要な要素です。

地の文にもいろんな種類がありまして。
例えば、太宰治「斜陽」は主人公が語り手になっているので、地の文の読みが自分主体になっているのが面白いところ。
これは私が受けた朗読検定3級の課題作品だったので、機会があれば解説していきたいです。

ではまた、「ごんぎつね(2)」でお会いしましょう!

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