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K子先生

高校時代の恩師といえば誰を思い浮かべますか?

担任、部活の顧問、仲良くしていた先生、用務員さん、購買のおばちゃんなどなど。
もしかしたら「いない」と答える人もいるかもしれません。

私には、人生を変えてくれた人がいます。
放送部の顧問でもあり、一番仲良くしてくれた人でもあり、アナウンスを教えてくれた師匠でもあります。
それが「K子先生」です。

K子先生は理科の実助教諭でした。
とにかく色んなことを知っていて、放送部の部活の時間、練習をしながらお手製のパンや焼き菓子をみんなで食べて女子トークに花を咲かせたものです。

父を亡くした時、真っ先に連絡をしたのもK子先生でした。
部活に出れないこと、K子先生に会えないと思うとすごくもどかしいなと感じていました。
実を言うと、放送部が楽しかったと記憶しているのは、K子先生と過ごす時間がすごく心地よく、そのおかげで部活を頑張ることができたのです。
NHKの教本をみんなでやっていた時です。
私がとある一文に苦戦していると、なんだかそれがおかしくなって笑いのツボに入りまして、それにつられて先生も友達も笑ったことがありました。
他にも、友達の一人が朗読する部分を選んだところがあまりにも「中華丼」が出てくるところで笑ったり、先生が「つるべ」を「鶴瓶」と混同して私達生徒を爆笑のどん底に陥れたり、「失敗したから」という理由でパンをくれたり、「色が好きだから」という理由でカメラやストップウォッチを原色ピンクに揃えたりと、大御所っぽい振る舞いをしながらもおちゃめさんで、私みたいな変わり者の味方でした。

「どうせならK子先生が担任になればいいのにな」
と思っていた2年の終わり頃、別れは突然訪れます。

先生方の異動がプリントで発表されます。
そこにはK子先生の名前が載っていました。
しかも異動先は市内にある放送部の強豪校。
「なんで?」と思いました。

この時点で、来年迎える高校創立の記念式典の司会が既に決まっていました。
「きりが立派に司会してる姿を見る」とおっしゃっていたので、気合を入れて練習をしなきゃと思っていた矢先のことです。

どうしてK子先生がいなくなるの?
残された私達はどうすればいいの?
K子先生がいない放送部は放送部じゃない!
せめて私が卒業するのを見届けてからにしてよ!

それは私だけじゃない。K子先生に関わった友達全員そう思いました。

離任式の日。
私はすごく複雑な心境でした。
友達は「もう泣くわ」と言ってハンカチを準備して、体育館に向かいます。

離任式が始まって、異動される先生の挨拶が次々と成される中、K子先生の出番になります。
K子先生はご自慢のアナウンスで挨拶を生徒にします。
最初は堂々としていたのですが、やがて少し涙声になって、終盤になると私達が普段聞いている話し声に戻っていました。
私は不思議と涙が出ませんでした。

式が終わって友達数人とK子先生の元へ行きました。
友達は涙目で話します。
私は泣きたかったのですが、少しこらえて
「先生行かないで」
と言いました。
K子先生は「ごめんね。本当はあんた達を送り出したかったんだけど、お上が決めたことだからどうにでもできない」と謝りました。
ただ、「離れていても私はあんた達を見てるし、もしそこの放送部の顧問になっても、私は味方だから」とハグしてくれました。
とうとう私は最後まで涙を出すことができませんでした。

K子先生と出会ってもうすぐ10年。
最後に会ったのは大学1年の夏にごはんに連れて行ってくれた時です。
それ以来、K子先生とは一度も会っていません。

就活の相談も、仕事の悩みも、彼氏ができたことも話したい。
連絡先は見ず知らずの男性の番号になり、LINEは応答なし。
メアドは知っていても、送る勇気がない。
でも会いたい。
今も赴任先の高校にいるのかすらもわからないし、それ以前に生きているのかすらもわからない。

あいたい。
K子先生にあいたいよ。

7年ごしの涙を流し、かつてのように色んな話をして花を咲かせたい。

ねぇK子先生。私ね、今noteっていうブログSNSで文章書いてるの。
小説も書き始めて、文章書くのって楽しいなぁって思ってる。
アナウンスと似た感じがして、自分で取材をしてそれを文にする。自分が見て感じたことを色んな人に知ってほしいから。
K子先生も俳句やってるからある意味同じ道を進んでいるのかもしれないね。
だからK子先生、もしこの文章を見ているならば、私のことを覚えていたら、一回連絡してもいいですか?
6年分の近況と、今の放送部がすごいということを語りたい。
私は小心者だから、いつになるかわからないけれど、メールを送る勇気が出たら、連絡をさせてください。

だって私はあなたの弟子だから。
お願いしますね、師匠。

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