こころのおそうじ④
現在、午前4時7分。
お風呂に入って、
身体が冷めるまで動画を見ながら
しばらくゴロンとして、
そろそろ眠れそうかとベッドに横になるも、
なぜか目が冴えて眠れなくなってしまった。
ただ目を閉じていようと思うのに
良からぬ過去の回想が始まってしまった。
やたらと何度もフラッシュバックする
出来事がある。
一つは今年の4月頃のこと。
フランス語学校の体験授業の時のこと。
教室に5、6人の生徒がいて、
授業の流れで順番に先生に質問される。
名前は?どこに住んでる?仕事は?等々、、
仕事を聞かれるのがいつも本当に嫌だ。
"Je suis professeur de chant. "
「歌の先生です。」
そう言って難を逃れた。
次は同じような会話をペアで行い、
話した相手の名前や住んでいる場所を
みんなに発表する。
私のパートナーだった男性が誤って、
"Elle est chanteuse. "
「彼女は歌手です。」
と言ってしまった。
その時、
フランス人講師は大げさにおどけて、
"Elle est chanteuse~~?? "
「彼女はかしゅ~~??」(笑)(笑)
と言ったのだが、私は硬直した。
私は音大の声楽専攻を卒業した
歌手なのだ。
在学中からプロの歌手として
仕事をしてきて、
今のメインの仕事はヴォイストレーナー。
しかし、
ステージには2021年の夏以来
立っていないから、
仕事が何か聞かれたら、
「歌い手」とは言えないし、
自分でもその職業名は
しっくり来なくなってしまっている。
もうステージに立ちたいとも
特に思っていない。
だから、
"Oui, je suis chanteuse depuis 20 ans."
「私は歌手ですよ。
20年も歌で仕事してるんです!」
とも言えず、
"C'est ça.."
「そうですよ。」
とだけ言ったら、
"Vous êtes chanteuse? "
「あなたは歌手?」
と、さらに聞いてきたけれど、
私はもう面倒で、
"Avant.." 「前ね、、」
と言って終わらせた。
この時私は、
「もう人前で歌わなくなったんだから
仕方ない」と、
やるせない思いを
押し込めたのだけれど、
今考えてみたら、
このフランス人教師は普通に失礼だった。
もっと腹を立てて怒って、
そこから出て行っても良かったんだと思う。
*
「歌手」という職業名は本当に厄介なので、
ずっと悩んできた。
「ピアニスト」とか「バイオリニスト」なら、
「わ~!すご~い!」で済むのだけれど、
「歌手」は音大出でも、
クラシック歌手でも関係なく、
なぜか嘲笑の対象になりやすい。
けれど、
ひとたびステージに上がって歌えば、
観客は拍手で私たちを賞賛するのだから
本当に可笑しなものだ。
「歌手」という仕事は
半分かそれ以上かほとんど
遊びだと思われているのだろう。
それがこの仕事の夢であり
美しさなのだから仕方がない。
遊んでいるように見えるような仕事で
お金をもらって生きていけることは
本当に誇らしいことだ。
*
ところで、私が時折、
腕の痺れや体が痛むほどの苦痛を伴って、
何度も思い出してしまう記憶というのは、
そのほとんどが、
「歌い手」としての自分を軽く扱われたり、
大切にされなかったと感じた時のものだ。
でも、
本当に私を大事にしなかったのは誰か、
それは明らかである。
もちろん、
この私だ。
虐げられ、蔑まれる方に、
自分を連れて行ってしまったのは、
私。
酷いことを言われたり
酷い扱いを受けても、
私のような
小さな、大したことのない歌手なのだから
仕方ないと
黙って
何も言わず
そこに居続けたのは
私。
*
この私は
どうすれば
成仏できるのでしょう。
とびっきり幸せになれば
忘れるの?
とびっきり幸せって、
何?
*
今は一生懸命歌うことなんて考えられない、
もうステージでなんか歌いたくないとさえ
思っているけれど、
いつか、
何かの形で、
とても平和で穏やかな心持ちで、
たのしくのびのびと
うたをうたって
まただれかのひかりに
なれたらいいなとおもう。
それは
いつどこで
だれと
だれのためにかは
ぜんぜんわからない。
でもいつかそんなひが
きたらいいなとおもいながら
ひとりうたいつづけようとおもう。
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