彼酔イ坂〜街角美身~遥か道の幸へ 008/小説+詞(コトバ)
彼酔イ坂に、また一人、迷い込んで来た女性がいます。
彼女の名前は、楼山道乃(ロウヤマミチノ)。
二週間前にホステスになりました。
それまでは、結婚して五年間、ずっと専業主婦でした。
そんな道乃がホステスになったきっかけは、夫の浮気でした。
初めは、絶対に許さない、離婚しようと思っていました。
しかし、両親が喜んでくれた結婚でした。
道乃は、悩みました。
一週間、考え続けました。
夫も、もう二度としないと誓ってくれましたので、一度だけの浮気ですし、今回は、許すと決めました。
そのかわり、働きに出ることを承諾させました。
ちょうど、パートにでも出たいと思っていたところでしたし、夫の浮気相手がホステスだったこともあり、道乃もホステスを経験してみることにしたのです。
いつも、夫は帰りが遅いですし、子どもはいませんので、なんの支障もありませんでした。
道乃は、太る体質なので、毎日の食事に気をつけ、運動も欠かさなかったため、二十七歳の専業主婦だったにもかかわらず、腰はクビれ、化粧栄えのする顔立ちに加え、いつもワイドショーを観ていたので、芸能から政治まで話題も豊富で、客ウケは上々でした。
とはいえ、夫へのあてつけと、夜の世界への好奇心からホステスになったので、初めは、あまり真剣ではありませんでした。
ですが、道乃は、水を得た魚でした。
すぐに、道乃を目当てのお客さんが来るようになり、夫には内緒ですが、同伴をするようにもなりました。
道乃の日常は、一変したのです。
しかし、朝はちゃんと起きて、夫の朝食を作り、送り出しています。
もちろん、洗濯をし、夫が食べるかもしれない夜食を作ることも、怠りませんでした。
それから、二時間ほど昼寝をして、風呂に入り、今まで以上に、肌の手入れを入念にします。
そして、少し濃いめの化粧をし、身体のラインがしっかりわかるようなスーツをバッグに詰め、夜の街へと出勤して行きます。
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