(小説)Youは 出張しに 日本に行っても お姉ちゃんのことで 頭がいっぱい!(1話)
【あらすじ】北米のとある街に住んでIT企業でプログラマーを勤めているシャーリー。彼女は日本で開かれる展示会「コンピューティング・アンド・インフォメーション・テクノロジー・エキスポ」に勤め先の提携先が出展することになってそこに販売代行してもらっている商品の紹介と海外顧客との問い合わせや商談対応として派遣されることになった。そして会場のブースでは設営準備、来場客の応対、回って視察、そして撤収。そんな出張中でも彼女の姉や親しい同僚のことは頭から消えなくて絵葉書を書いたりお土産を買ったりしました。展示会が終わった後は本格的に観光や買い物に熱を入れますが……
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今日はお姉ちゃんと一緒に夏休みの旅行に行く日です。市街地の西側にある家から車で北東の空港に向かうには少し遠かったので二人でキャリーバッグを持って家からバスを乗り継いで向かいました。空港のカウンターに着いて航空会社の地上スタッフに持ってきたキャリーバッグを預けてチェックインしました。免税店がいくつか並んでいる一角を横に見ながらボーディングブリッジに向かいました。指定された便の掲示があるベンチの前でお姉ちゃんと一緒にお菓子を食べてなにか他愛のないことをしゃべりながら搭乗開始を待ちました。搭乗開始時間が来てビジネスクラスの客の案内があって、その後しばらくたって、わたし達が呼ばれたので搭乗券を出して機内に入りました。デイバッグを座席の上の棚に入れて、二人で並んで座りました。もうすぐ出発です。
目覚ましの音につられてガバッと起きました。朝の日差しがまぶしいです。ああ、なんて幸せな夢だったんでしょう。わたしは、昨日のうちにプリントして机の上に置いてあった航空券代わりの予約確認済証を見て出発時刻を確認しました。
「十五時出発か……十ニ時半には空港についていないと」
私はつぶやきながらキャリーバッグの中身を確認した後、ほとんど空に近い冷蔵庫の残り物を集めて朝食を済ませました。
「それじゃ行ってくるね」
今日もずっとすやすやと眠っているお姉ちゃんにあいさつをして家を後にしました。その時ふっと思い出す、昨日の夢の中に出てきた、たぶん想像上の大人になったお姉ちゃんと比べてしまって涙が出てきました。ただ、今回の旅は夢で見た純粋な観光旅行ではなく勤め先から旅費が出ている出張です。わたしは昼前に家を出て、バスを乗り継いで一時間くらいで空港に着きました。予約確認済証を航空会社のカウンターの係員に見せて荷物を預けた後、ボーディングブリッジ前のベンチでコーヒーを飲みながらしばらく待ちました。
話は出張前最後の出勤日、一昨日の金曜日に戻りますが、その日任されていた比較的軽いコーディング作業を済ませ、これから行く展示会「コンピューティング・アンド・インフォメーション・テクノロジー・エキスポ」の概要と出展者案内が書かれたPDFファイルを見返した後、オフィスでささやかな送別会をしました。昼間だったのでアルコールはありませんが、ケーキを頂きました。遠い日本での展示会参加がんばってね、いい旅になることを祈っているよと同僚に言われながらコーヒーを飲みました。
エコノミークラスの乗客の呼び出しが来たので、わたしは搭乗列に並んで、係員にチェックインのときにもらった搭乗券を出して機内に入りました。わたしが席に座るとしばらくの間ざわついていましたが、やがて静かになったところで離陸しました。乗務員による非常時の酸素吸引器や救命胴衣の付け方の説明がありました。それが終わって落ち着いたところで、わたしはスマホに入れたロンリープラネットの日本語会話本の電子版を開いて日常会話の復習をしました。そのほかの時間は機内食を食べたり、乗務員からいただいたコーヒーやコーラを飲んだり、そして大半の時間は寝ていました。
わたしが乗っている飛行機は離陸から十時間ほどたってようやく目的地の成田空港に着陸しました。飛行機から出て入国審査を済ませました。カルーセルで荷物を回収して出たところにある両替機にとりあえず薄いプラスチックでできていて透けて見えるところがある二十ドル札五枚を最低限必要な額として入れたら一万円くらい出てきたのでとりあえずの交通費とクレジットカードが使えないところでの食事代はなんとかなりそうです。そしてこのフロアには売店はなく、案内板を見たら出発ロビーのある四階にあることがわかったので一旦そこに登ってそこにある売店で絵葉書と切手を買ってから、ターミナルの地下にある空港駅の案内所に向かいました。そこで、地元のダウンタウンから一キロ半離れたところにある旅行会社のカウンターで買っておいたジャパン・レール・パスの引換券を出して、
「ワタシ、コレヲパスニ引換エタイデス。ソシテ、コレカラ千葉駅ノ近クノホテルニ行キタイノデスガ」
わたしは係員に片言のたどたどしい日本語で聞くと
「少しお待ち下さい」
と、彼女はその引換券の発行元を見て、流暢な英語で返してきました。そして後ろに消えてしばらくすると戻ってきました。
「これがパスになります。七日間用でよろしいでしょうか?」
と、パスを出して聞いてきたので
「これで結構です」
と答えたら彼女はそれに続いて、
「右側の改札から入ってホームに降りたら青と白の線のある電車に乗ってください」
と、千葉駅への行き方を教えてくれました。そこで長距離の移動はしない展示会出展参加日のために、ウェルカムスイカというものを別に勧められて買ったので改札機に言われたとおりにタッチしてホームに向かいました。説明によるとこのカードは観光客向けで、地元の人が使う普通のものでは必要なカード代がいらないかわりに四週間で使えなくなって残高も消えるとのことでした。このようなカードは私の国の別の街で使ったことがあるので詳しいことを言われなくてもだいたいわかったのですが、わたし達の市の交通局では導入するという話は今のところ聞かれません。そしてホームに停まっていたまだ真新しい銀色に青と白の横線がある長い電車に乗りました。窓の外を見ると田園風景が広がっていました。ドアの上には液晶モニタがついていて次の駅の案内と広告が流れます。走行しているうちに、
「次の駅は千葉です。JO二十八番です」
という自動アナウンスが聞こえたので降りる準備をしました。
荷物を手にホームに出て、エスカレーターを上ると改札を出る手前のコンコースに土産物店や食料品店などのちょっとした店がいくつも立ち並んでいて目を丸くしました。まだ改札を出ていないのにわたしが飛行機に乗った空港並みの店の数でした。まだ東京の都心から遠く離れた郊外なのに。うちの街では駅の出入口に出店したところで採算が合うかどうかは厳しいかなという感じがしました。改札を出て右に進んでデッキ伝いに進み、スマホの地図で確認したホテルに向かって数分歩いてホテルに着き、チェックインを済ませて部屋に荷物を置きました。持ってきたノートパソコンでホテルの無線LANにつなぐと、勤務先と業務提携していて、ブースの出展者であるノゾミシステムズの出展担当・渚さんからメールが来ていました。
「シャーリー・オニール・ポプロースキー様へ もう成田空港を出てホテルに着いた頃でしょうか。「コンピューティング・アンド・インフォメーション・テクノロジー・エキスポ」の出展者証をお渡ししたいので明日火曜日、幕張メッセの入場口前のベンチで午前八時ごろにお会いできないでしょうか? もしご都合が悪いようであれば、またお知らせください。明日お目にかかれますこと楽しみにしております。ノゾミシステムズ広報部 稲沢渚」
という内容だったので返事を出しました。
「稲沢渚様へ メールをいただきまして、ありがとうございます。それで大丈夫ですので明日の午前八時におうかがいします。」
と返信しました。
少し落ち着いたところで駅前付近を散歩しました。ちょうど目の前にあった電器店をのぞきました。私の国では見なかった九階建てという巨大な専門店で家電製品のほかおもちゃの他ちょっとした化粧品も扱っていました。わたしは最初に携帯電話売り場で観光客向けSIMカードを買った後、それなりの規模があったパソコンコーナーを回って最新機種を触ってみたりしました。本命の買い物は同僚の間でも知らないものはいないという……そう、あの秋葉原でする予定です。レストラン街がビル内にあってそこで軽く食事を済ませ、近くの線路の高架下にあった小さなスーパーに立ち寄った後、午後九時くらいにホテルに戻りました。そのスーパーには今まで見たことがなかったものもたくさんあって、もっと余裕のあるときにじっくり買い物したいです。わたしは、長い距離を移動して日本に着いた当日で、時差ボケでなんとなく眠いということもあって早めに寝ました。今日撮った写真をSNSにアップロードしたり大事なお姉ちゃんに初めて踏み入れた土地から絵葉書を書きたかったけど体力ゲージがもう残り少ないので明日以降にします。時間に余裕があったら必ず書くからね、お姉ちゃん。
に続きます。