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映像監督・小鷹裕の「きらくな映画倶楽部」|第3回 自主制作映画の楽しみ

自主制作映画とは、一言でまとめると「監督個人が集めたお金で制作された映画」です。監督自身が集めた資金で作る映画なので「こういう映画があったら面白い!」という個人的な想いを最優先できます。

一方、映画会社やテレビ局など自分以外のお金で映画を作る商業映画は、予算・スケジュール・集客力といった側面から事業性を考えに入れる必要があります。簡単に言えば、他人ではなく自分の資金で作るため自主制作映画のほうが監督は作品に集中しやすいというわけです。

他では得難い楽しみがある自主制作映画ですが、なんとなくのイメージで「大変そう…」と尻込みする人が少なくないのではないでしょうか。そこで、映像監督・小鷹裕さんに自主制作映画の楽しみを詳しく語っていただきました。

小鷹監督によると、「自主制作映画はアイデアと熱意があれ費用0円で撮れます」とのこと。自主制作映画の作品を1つでも仕上げれば監督として一気にレベルアップするそうです。一歩を踏み出す勇気が湧いてくる内容ですので、映像初心者の方にぜひお読みいただきたいと思っています。

語り手・小鷹裕(映像監督)、取材&構成・長尾和也(ライター)

★第2回 「超重要な『作品意図の理解』とは?」を読む。 

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★小鷹裕 東京都出身、1986年生まれ。和光大学表現学部の学生時代に映像制作を始め、当時、同大学の准教授だった高橋巌監督に師事。卒業後、TV局やCM制作会社の勤務を経て2014年に独立。2017年にVシネマ『ナマ配信 放送禁止のプライバシー』で商業監督デビュー。2020年にはTVドラマ『ギリシャ神話劇場 神々と人々の日々(TOKYO MX)』で監督を務めた。そのほか、CM・MV・WEB配信といった多分野の映像作品を監督として支えている。

自主制作映画の楽しみの本質とは

——自主制作映画は「作るのが大変な割に儲からない」というイメージを持つ人が少なくないと思います。儲けを度外視して自主制作映画を撮り続ける監督が大勢いるのはどうしてだとお考えですか?

小鷹:
自主制作映画ならではの作り手の楽しみがあるからだと思います。前回は「作品意図に専念できる」という観点で自主制作映画の楽しみに軽く触れました。

さらに掘り下げて言えば、自主制作映画は作品意図に専念したうえで失敗を恐れずに創意工夫できるというわけです。映画を自主制作する楽しみの本質は「自由度の高さ」にあるのではないでしょうか。

例えば、大宇宙を舞台にした映画を撮る場合、商業映画はCGを使うかもしれません。お金はかかりますが実績のあるセオリーがいくつかあるので。

一方、自主制作映画はセオリーから外れた方法を試しても良いわけです。これは思いつきですが、真っ暗な部屋の平らな壁にプロジェクターで宇宙空間を映し出すとか。

キャスティングやスタッフィングといった人材集めも自主制作映画は自由です。「アイツは面白そうだから一緒に映画を作りたい」とか、個人的な理由でスタッフや役者に声をかけても自主制作映画はぜんぜんOKです。

——監督のこだわりで決められるということですね。

小鷹:
そうです。だから、監督の故郷など思い入れのある場所を撮影現場にするのは一手だと思います。ボランティア協力を頼みやすいというリアルな事情もありますが(笑)。

馴染みの深い場所で撮影された映画は説得力が強いと思うんですよね。その場所で生まれ育った人だからこそ深部を描けるシーンがあるのではないでしょうか。「自主制作映画の第一作は故郷で」と考える監督は少なくないですね。

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自主制作映画は悩みすらも楽しめる!?

——自由度が高い一方で、資金不足に縛られてしまうという側面があるような気がして心配です。

小鷹:
資金不足の悩みすら楽しめる余裕があるので大丈夫です。

確かに、商業映画を作るときは実験的な方法を選択することは勇気が必要です。出資者やプロデューサーが満足する「結果」を意識することがプロとして求められますからね。

一方、自主制作映画は、誰に気兼ねすることなく実験できる。そもそもセオリーを使う予算がない(笑)。

独自の方法を考案して、試行錯誤して、OKとNGの曖昧なところにジャッジを下して、自問自答しながら納得して映画を作り上げていきます。

——ただ、スタッフや役者といった人材をボランティアで集めることには限界があるのではないでしょうか。資金不足から生じた人材不足は、やはり自由度を小さくしませんか?

小鷹:
監督の熱意次第で人材は集められると思います。うさんくさい言い方ですが(笑)。「この映画はあなたがいないと作れないんです!」と、必然性をスタッフや役者に伝えれば協力者が見つかります。

映画を自主制作したい人は、監督だけでなくスタッフや役者にもいるということです。

——最近はプロに無償奉仕を求める「やりがい搾取」の問題がよく取り沙汰されていますが。

小鷹:
対等な人間関係と誤解のないコミュニケーションを心がければ、すれ違いから生まれるトラブルは予防できるんじゃないでしょうか。

「あなたのためになるイイ話だから協力してくれ」と、曖昧に期待させたり、人間関係のしがらみで無理に説得すれば、それはやりがい搾取です。

監督自身の熱意のほか、交通費や食費ぐらいしか出せないといった苦しい資金状況を一番始めに伝えることは必須です。

また、十分な報酬を支払えない場合、「監督が責任を取る」という意識を持ちましょう。撮影が遅れたり、思ったように仕上がらなかったりしても監督自身が責任を受け止める。これも監督の大事な仕事です。

——ちなみに劇映画を撮る場合、製作チームの人数はどれくらいですか?

小鷹:
撮影・録音・照明・美術・衣装・メイクといった画作りに直接関わる人のほか、演出部や制作部といった円滑な現場運営を支える人が必要です。なので、監督を含めて合計9人程度いれば現場がスムーズに進行すると思います。作品の意図や脚本にもよりますが。

演出部や制作部は役割が分かりにくいと思うので簡単に説明します。

演出部は「次はシーン20を撮ります!撮影さんは●●、録音さんは●●……」と、撮影現場の進行を管理しつつ、各部門に具体的な動きを指示する役割を担います。一般的には助監督と呼ばれることが多いです。

制作部は、撮影現場の下準備の役割を担います。外から見えにくい陰の仕事が多岐に渡るため、一言で説明することは難しいのですが……具体例を挙げると、ロケ地関係者との交渉や挨拶、みんなのご飯の準備、有償で協力してくれた人に報酬を渡す、といったところです。

——必要な技術を持つスタッフが集まらないときはどうすればいいのでしょうか?

小鷹:
それも熱意と工夫が解決します(笑)。

例えば、録音や照明は手の空いている人が担当するとか、衣装やメイクは役者にお任せするとか、1人が兼務すればいいわけです。

スタッフが不慣れなことを担当すると失敗が多くなるかもしれませんが、そういう事情は製作チームは承知のうえです。「失敗して当然」という自由な雰囲気を監督が作れば、大変さも逆に楽しみに繋がるというわけです。

——自主制作映画はプロセスを楽しむことが大事なんですね。

小鷹:
特に第一作は完成させることを目標にして、プロセスを楽しむのが良いと思います。製作チーム全員で自主制作映画の楽しみを共有して、第二作に繋がる一体感を作っていきましょう。

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第一作を完成させると次の風景が見えてくる

——「第一作は完成させることが大事」とのことですが、自主制作映画はとてもエネルギーを使うと思います。次々と作品を作っていけるものでしょうか?

小鷹:
自主制作に使うエネルギーは、第一作よりも第二作のほうが小さいと思います。

その理由の一つとして、第一作を公開すると経験豊富なスタッフや役者が新たな協力者として名乗りを挙げてくれることがあります。製作チームの弱点を補強するきっかけが生まれます。

もう一つの理由が、スポンサーを集めるハードルが下がる点です。「資金があれば、もっと素晴らしい映画を作ることができます」と、第一作を引っさげてスポンサーにプレゼンするというわけです。いわば第一作が監督の実績例になります。クラウドファンディングの活用も一手だと思います。

——実例があると監督の言葉が説得力を帯びるということですね。

小鷹:
はい。

自主制作映画はたくさんの協力者が必要です。第一作があると、スタッフ・役者・スポンサーのほか、取材やロケハンなど色々なことがやりやすくなります。

第一作を完成させることは確かに大変ですが、監督としての力量が格段にレベルアップします。自主制作映画の第一作は監督としての基礎を身につけられる修業のようなもの——と、私は思っています。

現在、私がかなり幅広いジャンルの映像で監督を務められている理由は、大学時代から映画を自主制作する経験に恵まれていたからだと思います。所属していた大学で特別教授を務めていた映画監督との出会いがきっかけです。私も自主制作映画にチャレンジするきっかけをたくさんの人に提供できたら嬉しいですね。

次回のテーマは「企画書とプロット」です。言葉として聞いたことのある人は多いと思いますが、具体的なイメージがない人もいるのではないでしょうか。企画書とプロットは、いわば「最初の一歩」です。

★第4回 「企画書とプロット」を読む。

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