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掌編小説【タカシとおじいちゃん】

お題「ギックリ腰」

「タカシとおじいちゃん」

幼稚園から戻ったタカシがいつものように絵本を読んでもらおうとおじいちゃんの部屋に行くと、畳の上でおじいちゃんがうつぶせに倒れていた。おじいちゃんが死んでる!タカシが駆け寄るとおじいちゃんがぴくりと動いた。よかった、死んでない…
「おじいちゃん、どうしたの?寝てたの?」おじいちゃんは答えてくれない。背中はかすかに動いている。おじいちゃんの近くまで行って顔をのぞき込む。おじいちゃんは目を閉じたまま。どうしよう。お母さんは買い物、でんわのかけ方は知らないし、一人で外に出ちゃいけないと言われている。タカシがこまっていると、おじいちゃんが薄目を開けた。そしてようやく、うめくようなちいさな声でつぶやいた。
「ぎっ…くり…ごし」
はじめて聞くその言葉は、なにかの呪文みたいだった。
「あたらしいあそびなの…?」
タカシはおじいちゃんのマネをして、となりに並んで同じ形で寝転んだ。畳の匂いがきもちよかった。おひさまがポカポカと背中にあたる。タカシはおじいちゃんのはげかけた後頭部を見ながら、「ぎっ、くり、ごし」とつぶやいた。そしてなにか素晴らしいことが起こるのを待つうちにスウスウと寝息をたてて眠ってしまった。

おわり (2021/6 作)

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