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掌編小説【チカモク】

お題「木星」

「チカモク」

「スイキンチカモクドッテンカイメイ」覚えたての幼い頃、呪文みたいに唱えていた。
水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星、と続く太陽系の並び順。
ドの次に「ッ」が入るのは音が面白くなって唱えやすかったから。
最近ふと、これって「起承転結」みたいだ、と思った。
「スイキン」が「起」、「チカモク」が「承」、「ドッテン」が「転」、「カイメイ」が「結」。
「ドッテン」はいかにも何かが転換しそうだし、「カイメイ」も結末っぽい。
「スイキン」という音も、何かが立ち上がりそうな感じがする。
一方、その間に挟まれる「承」を担う「チカモク」、少し地味かも。
スマートな「スイキン」とふざけた「ドッテン」に挟まれて小さくなっている「チカモク」。
でも私はそういう存在に親しみを感じる。
だからそっと「チカモク」と呼び掛けてみる。
「チカモク」は恥ずかしそうにニコッと微笑む。
そういえば「承」の部分はドラマの中の時間的には一番長い。要するに日常か。
でもそんな淡々とした日常こそがドラマを作る。
「チカモク」は地味な日常だ。
日常は時に「ドッテン」しながら「カイメイ」に向かう。
太陽系という惑星のドラマの中に私達の日常はある。

おわり (2019/11 作)

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