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掌編小説【歌】

お題「骨折」

「歌」

村から盗んできたお宝の中に女がいた。生ものはだめだと言っていたのに小鬼が人形かと思ってさらってきたのだ。女は十二くらいだろうか。艶のある黒髪は肩のあたりで切り揃えられ、花柄の着物を重ね着している様子は、小鬼が市松人形と間違えても不思議はない。だが鬼は人間を食わないし人形遊びの趣味もない。俺は人形みたいな女を小さな部屋に閉じ込めた。女は泣きもせず話もせず、阿保なのかと思ったが饅頭などを与えて放っておいた。ある日、女を閉じ込めた部屋から歌が聴こえてきた。初めて聴くその歌は俺の胸をざわつかせた。女の部屋に入って、「もう一度歌え」と言った。女は歌わない。俺をじっと見て「家に帰りたい」とだけ言った。俺は「だめだ」と答えて部屋を出た。翌日からも女の部屋からは歌が聴こえてきた。俺は毎日女の部屋に行った。その度に女は「家に帰りたい」と言った。俺は「だめだ」と言った。ある日、女が館から逃げた。着物の裾から見える女の足は俺の指よりも細かった。俺は女をつかまえて、女の足をぽきりと折った。女は「あ」と言った。俺は折れた足をなでて痛みを取ってやった。女は笑った。そして「歌ってほしいか」と聞いた。俺はうなずいた。

おわり (2020/2 作)

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