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SS【手料理】#シロクマ文芸部

お題「りんご箱」から始まる物語

【手料理】(1300文字)

 りんご箱を開けた。りんご農家の実家から送られてきたのだ。今月はもう生活費が底をついていたから、りんごだけでもありがたい。僕はいそいそと箱を開けた。

 しかし、おが屑の真ん中にいたのは小人だった。
 小人なんて食べられないじゃないか!
 僕は腹を立てて小人に詰問した。
「おい、僕のところに届くはずだったりんごをどうしたんだ?」
「すまねぇな、くっちゃって」
 僕は小人を箱からつまみ出すと、おが屑の中をゴソゴソと探った。しかし、芯と種ばかり…。
「そんなに小さいくせに全部食ったのかよ」
「はらがへっては…ってね」
 小人はぽんぽんとお腹をたたいて満足気に言った。僕のお腹はぺこぺこなのに、どうしてくれるんだ。
「僕は腹が減ってるんだぞ。代わりにお前を食ってやろうか!」
 そんなことをするつもりはなかったが、ちょっと低い声で脅してやると小人はゲラゲラ笑った。あーあ、もう怒るのも面倒だ。僕はぷぃと横を向いて寝ころんだ。小人なんか知るもんか。目を閉じた僕はそのまま眠り込んでしまった…。

 コトコトコト。いい匂いがして目が覚めた。僕はどこにいるんだっけ…。
「…母さん?」
 いやいや、そんなはずはない。ここは東京、僕の部屋だ。いい匂いが部屋中に満ちている。味噌汁の匂いだ。僕ははっきりと目が覚めて跳ね起きた。  誰かがいる!
「おきたか?」
 巨大なお玉と箸を器用に持って、鍋に味噌を溶き入れているのは小人だった。夢じゃなかったのか…。
「なにしてるんだ?」
「りんごのおれいにね」
「味噌なんてあったか?」
「かりてきてやったよ」
 借り暮らしかよ…。限りなく盗んだに近いことをしたとしか思えない。
「たまごとごはんも」
 小人がどこかに忍び込んでエッチラオッチラ運んできた様子を想像すると、ちょっと可笑しかった。それにしても、小さいくせによく食うし力持ちだ。小人は卵をパカッと器用に割り入れ、半熟になる頃合いを見計らって火を止めた。
「くちにあうといいけどな」
 小人はきちんと椀によそって僕の前に味噌汁を置いた。ごはんは俵のおにぎりになっている。どう握ったのだろう、謎だ。僕は恐る恐る味噌汁を飲んだ。…美味い。美味すぎだろ。
 小人は小鼻をふくらませてうなずいている。プロの料理人だったそうだ。

 それ以来、僕は小人と暮らしている。小人は僕と同じくらいしっかり食べるけど、やりくり上手で(時には借りてきたりもして)少ない食費でも毎日美味い飯が食える。りんごの元は十分にとれた。
 小人の事情をさらに聞いてみると、小人関係にトラブルがあって村から出奔したらしい。レストランオーナーの妻とややこしい関係になったとかで…。小人社会も人間社会と変わらない。
「おいてもらってたすかったよ」
 まぁ、そう言ってくれるからお互いさまだ。

 小人は僕の彼女が遊びに来ると、気を利かせて外に出る。でも僕はあまりうれしくない。彼女の手料理はお世辞にも美味いとは言えないから。
 僕はつい、彼女が早く帰ってくれないかなと思ってしまう。
 彼女の手料理より小人の手料理がいいなんて…胃袋をつかまれるっていうのは、こういうことを言うのだろう。

 昨夜は「あすはさんまでもやくか」って言ってたしなぁ。
 焼き加減がまた絶妙なんだよな。


おわり

(2023/10/22 作)

小牧幸助さんの『シロクマ文芸部』イベントに参加させていただきました。

今回のお題は、小人と相性が良さそう♪と思って書き始めたのに、かわいい小人のはずがオッサンみたいな… (;・∀・)なんでやねん。
創作の不思議…

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