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掌編小説【チャンス】

お題「お城」

【チャンス】(500文字)

ある日、いつものように浜辺を散歩していると、亀が子ども達にいじめられていた。
僕は胸が高鳴った。チャンスだ。

子どもの頃、僕は白髪の老人から話を聞いた。
「わしは昔、亀を助けた礼に竜宮城へ誘われたんじゃ。海の中のお城は、それはそれはきれいでな…。乙姫さまは優しいし、毎日ごちそうじゃ。しかしお袋の事が気になってなぁ…」
老人は視線を足元に落とした。
「戻ってきたはいいが、おみやげの玉手箱を開けたら…」
老人は自分の顔を皺だらけの手でなでた。
「あっと言う間に老人じゃ。そしてお袋も生きてはおらなんだ。もし亀を助けることがあったら、気をつけるんだぞ。こっちに戻る理由さえなければ、竜宮城でずっと遊んでいればいいんじゃからな」
僕は、わかったとうなずいた。

そして今日、待ちに待った時が来たのだ。
僕は首尾よく子ども達を追い払った。亀は予想通り、お礼にと僕を竜宮城に誘った。でも僕は言った。
「今すぐは都合が悪いんだ。一カ月後にここで会おう」
僕は急いで妻と離婚し、会社を辞め、持ち物を捨て、貯金も使い果たした。
しかし一カ月後、浜辺に亀は現れなかった。
僕はその時になって気づいた。
竜宮城とこちらでは時間の流れ方が違うのだ…と。


おわり

(2023/2/4 作)

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