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SS【あさぱん】

お題「あんぱん」※イベントではなく個人的に立てたお題です

【あさぱん】

朝ごはんはあんぱんと決まっている。
この街にはあんぱん専門店しかないから。
朝七時から開いているその店は、おじいさんが一人で切り盛りしている。
初めて会った時からおじいさんだったが、三十年経った今もおじいさんだ。
おじいさんの期間が長い人生なのだ。そんな人生もいいな、と思う。

あんぱん屋は家からあるいて十五分。ちょうどいい朝の散歩。
「おはよう」
「おはようさん」
あんぱん代は毎月三十日分まとめて前払いしている。
おじいさんがいちいちレジをさわるのが面倒だと言うので。
一カ月六千円。
一年で五日分か六日分はサービスしてもらっている計算。

この街の人はみんな、あんぱんを食べる。
子どもでさえ、毎月のおこずかいから数百円、持ってくる。
数個のあんぱんを一カ月のうちのいつ食べるか…
子どもにとっては楽しくてなやましい、大問題である。
大人の私は威張って毎日食べる。

まだ温かいあんぱんを二つ、おじいさんが紙袋に入れる。
「ありがとよ」
「今日も暑くなりそうね」
「そうだな」
おじいさんはあまりしゃべらない。毎日あんぱんを焼いて売るだけ。

家に帰ると仏壇にあんぱんを一つ、供える。
そして自分のためにコーヒーを淹れる。
コーヒーとあんぱんほどいい相性のものはないと思う。
もう一つのあんぱんを皿に乗せて手を合わせる。
二つに割ると粒あんが笑っている。おはよー、あん。
一口かじってコーヒーを飲む。ふくふくとしあわせ。

この街の人はみんな、あんぱんを食べる。
みんながしあわせなのは、おじいさんのおかげ。
でもおじいさんはもう食べないらしい。
あんぱんは人生で十万個までなんだって。
わたしはまだまだいける。

おわり

(2023/8/17 作)


なんとなくあんパンが食べたくなって書いただけのお話…。
(;・∀・)

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