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瓜生晩餐
2024年7月10日 02:26
冬の終わりが兆し始めた三月上旬、穏やかな春風と共に今月一回目のパーティーが松平によって渋谷で開かれた。圧倒的主催者根性の松平は多くて週に一度、現在自分が育てているクリエイターを酒の席に集わせ、意見交流の場を設けることに喜びを享受している。彼曰く「人間関係が狭くなりがちな傾向にある表現者同士を結集させることで、クリエイティブに必要な視野の拡大が望める」らしいが、真意はわからない。僕の目から視る松平
2024年7月11日 02:31
喫煙所から出た後は松平に適当な理由を告げ、VIPルームには引き返さなかった。いずみのマンションへ戻る気にはなれず、他人との交流を遮断し今は制作に打ち込みたい心地だったので、三年前から借りている立川のアトリエ代わりの安アパートに大人しく帰った。数時間後、ゴミ屋敷に近い状態の一室で僕が筆を握ると、松平から「刺青と巨乳でロイヤルスイート。半分桧山の尻拭い」とLINEが届いた。何が尻拭いだ。口では偉そう
2024年7月12日 02:42
「似顔絵?」 いずみが用意した二段弁当をつつきながら、訊ねるように彼女の言葉を短く反復し、口の中では咀嚼を継続する。焼き鯖と若菜の混ぜご飯が主食として一段目に詰められており、二段目のおかずゾーンには玉子焼きとアスパラベーコン、帆立の貝柱バターソテーに素揚げした肉団子。銀杏型に飾り切りされた茹でニンジンと二粒のプチトマト。見た目にも華やかな弁当。更にいずみは最後の一押しで、魔法瓶に赤だしの味噌汁
2024年7月17日 03:16
爪の先でカリカリと机を詰りながら、明らかに不服そうな態度を浮かべる松平。かたや村上は堂に入った面持ちのまま、背筋よく正面を睨んでいる。頬杖をついて重ための咳を挟んだ松平が「俺に才能があるかないかって、ソレ、君の主観でしょ」と言った。「そうかもしれません。ただ、あなたみたいな凡人が飼い慣らせるほど桧山さんの表現力は大人しくない。獰猛で、繊細で、元来誰かのロボットになれるような性格はしていません