木古おうみ

文字が読めるようになってきた蛮族。領怪神犯などのホラー小説やライトノベルを出しています…

木古おうみ

文字が読めるようになってきた蛮族。領怪神犯などのホラー小説やライトノベルを出しています。鬼太郎の妖怪はぬりかべが好きです

マガジン

  • ホラー映画感想

    面白かったのからクソ映画まで

  • 読書感想文

    本棚代わり

  • 何かトガった本が読みたい

    ベストセラー特集には載らなさそうな若干ヤバげでトガった珍しい本の話をしたいと思います

最近の記事

キリング・クッキング・ダイニング

子どもの頃、カスクートをフリスビーみたいに投げて遊んだらお袋に包丁で殴られた。食い物を粗末にしちゃいけないと身に沁みた。 だから、こんなに難儀な人間になっちまったのか。 俺の殺しの流儀はふたつ。標的が飯を食い終えてから殺すこと、殺した後に冷蔵庫を開けること。 空腹のまま死んだんじゃ浮かばれないし、腐り果てる食物は哀れだ。 血の海に沈む暗いキッチンで、絞殺死体が腰掛けるダイニングで、俺は冷蔵庫の残り物で飯を作って食ってから帰る。 献立を考えるのは得意になった。冷凍のタイ米と

    • 父買う夜市

      我が家は母ひとり子ひとりだから、ずっと父親が欲しかった。 運動会や授業参観、叱られた友人の愚痴すら羨ましかった。 だから、九つのとき、初めて行った夜市で沢山の父が売られているのを見たときは本当に嬉しかった。 脳が痺れる甘い煙と香具師のがなり声が漂う蝦蟇通りの夜市で、母に手を引かれながら露店を見て回った。父屋の前を過るとき、母は手の力を強め、足を速めた。 でも、檻の中のひとりと目が合ったとき、必ず自分の父にすると心に決めた。 それからは新聞配達から赤子の世話までして金を稼

      • 【逆噴射プラクティス】潜脳師

        包帯の下で溶岩のように熱くたぎる赤い肌に触れた瞬間、湧き出した蛆虫たちが俺の指に縋った。 いつものように、幻覚だと思った。 閉店間際のスーパーマーケットで半額の弁当を取る老人の肘にぶつかった瞬間。大学生時代にゼミの飲み会で知らない女に手首を掴まれた瞬間。 こういうものを見た経験は何度もあった。 いつも通り、五感の情報に集中して脳から幻想を押し流す。感じたのは、頼りなげな細く柔らかい虫が肘を這い上る感触だった。 俺は咄嗟に蛆虫を払い退ける。真っ二つに潰れた虫の体液が糸を引い

        • 【逆噴射プラクティス】有臓無憎

          これだけ刑務所で受刑者が死ぬなら、俺たちが逮捕する前に撃っちまっても同じじゃねえか。 飲みの席で噂を聞いたときは確かにそう笑い飛ばした。 だが、実際目の当たりにすると話は別だ。 「胸にはいが詰まってたんですよ」 後輩の赤城は無表情に言う。相変わらず刑事らしくない青白い顔だ。昔逮捕したシャブ中に似ていた。 「肺なら俺にもお前にも詰まったんだろ」 独房へ続く階段の黴くささと湿気に苛つきながら答えると、赤城はかぶりを振った。 「肺じゃなくて、遺灰の灰です」 「何?」 聞き返すよ

        キリング・クッキング・ダイニング

        マガジン

        • ホラー映画感想
          10本
        • 読書感想文
          7本
        • 何かトガった本が読みたい
          4本

        記事

          鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎〜水木の煙草と哭倉村の民俗学っぽい話〜

          ヤニカスです。誇りに思います。 ゲ謎の話でまとめきれなかった部分をざっくりと。前半は水木が吸う煙草の話。後半は哭倉村のモチーフの民俗学的な話。後半に関しては大学と趣味で少しやってる程度のホラー作家の一見解として流して見てください。 〜水木青年の煙草の話〜 ゲ謎は喫煙者の多さが昭和らしくていい。 人間を憎んでいたというゲゲ郎がどこで煙草の味を覚えたのかは気になる。奥さんは吸ってそうには見えないが……。 中でも水木青年の煙草の使い方は前の感想の方でも触れたけどとても象徴的

          鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎〜水木の煙草と哭倉村の民俗学っぽい話〜

          鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎を観た〜因習を断ち切り、未来を繋ぐ大人たちの話〜

          最高でしたよ!とっくにブームなので自分が言うこともほぼないんだけど。 PG12に削ぐわないハードな内容で、横溝正史オマージュ満載のガッツリ因習村ホラー映画になっている。最初に座敷に招かれるシーンとかばりばり角川映画版の犬神家の一族ですよ。 戦闘シーンもめちゃくちゃカッコいいし、バディブロマンスとしても最高。子ども向けどころか大人が観て楽しめる映画です。タイトルの通り、これは鬼太郎の誕生に関わるふたりの父の物語。つまり、大人の責務を巡る話だ。 ざっくり説明すると舞台は昭和三

          鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎を観た〜因習を断ち切り、未来を繋ぐ大人たちの話〜

          埠頭、腎臓、スーパーチャット

          結婚式に乱入して、サウンド・オブ・サイレンスを流しながら、愛する女とバスに乗り込むなら格好がつくが、俺は何もかもが違った。 今いるのは子どもの玩具のようなコンテナが並ぶ真夜中の埠頭。盗むのは死体。イヤホンから流れるのはVtuberの雑談配信。 これから命をかける相手は、美少女の皮を被ったおっさんだ。 倉庫から中国語の混じった怒声が聞こえた。 俺は緊張を紛らわせるため、生配信の音量を上げる。港のWi-Fiは弱く、何度も動画が止まって苛ついた。 「スパチャありがとうござい

          埠頭、腎臓、スーパーチャット

          FGOハロウィン2022のためのざっくり水滸伝解説②呼延灼って誰?

          ジャンプ漫画を読んでると「アニメ化したら二クールくらいやった後ここが劇場版になるんだろうな」って超盛り上がるバトルがあるよね。無限列車編とかレゼ編とか。 水滸伝のその部分が呼延灼戦だ! 梁山泊にもキャラの濃い面子がたくさん揃い、ついに国が放置しておけないくらい組織がデッカくなった。度々気に入らない役人を沈めてバラしてBBQとかしてる蛮族集団なので討伐は妥当。 強者揃いの梁山泊を討つために司令官として選ばれたのが双鞭・呼延灼だ。 建国の英雄の子孫で、彼自身も国に厚い忠誠を誓

          FGOハロウィン2022のためのざっくり水滸伝解説②呼延灼って誰?

          FGOハロウィン2022のためのざっくり水滸伝解説

          します。 FGOでそろそろ燕青以外の水滸伝鯖増えないかなとは思ってたけど、まさかハロウィンに来ないと思ってたのでびっくりした。 ハロウィンに姫路城やピラミッドを出すゲームだった。油断してた。 中国古典名作文学というとお堅くてとっつきにくいイメージがあるけど水滸伝はそんなことはない。 原初(?)の転生チートものだし、登場人物皆半人外なので集団戦も個人戦も異能少年マンガに近くて面白い。 そして、治安が最悪。主要メンバーの六〜七割が殺人鬼、アル中、文盲、食人経験ありとすげえ奴ら

          FGOハロウィン2022のためのざっくり水滸伝解説

          藤本タツキ『さよなら絵梨』を読んだ。〜切り取った綺麗な物語を観たいのが人間だから〜

          短編のページ数が明らかに短編のそれではない藤本タツキ先生の最新作だ。 主人公は難病に侵された母の願いで母が生きた記録を撮ることになった中学生の少年・優太。 何気ない日常から闘病生活まで余すことなく撮ったが、ついに母の臨終のとき撮影から逃げ出してしまう。 優太は文化祭で自主制作映画として母の記録を放映する。ラストシーンはなんと、爆発オチ。 炸裂する病院をバックに彼が「さよなら母さん!」と絶叫して駆け出す演出に、生徒や教師は「意味不明」「胸糞悪い」と猛批判。 生きる希望をな

          藤本タツキ『さよなら絵梨』を読んだ。〜切り取った綺麗な物語を観たいのが人間だから〜

          高丘哲次『約束の果て: 黒と紫の国』〜取り零された者たちの偽史を巡る中華ファンタジー〜

          小説という言葉は“稗史小説”から来ているそうだ。 元は中国で、国が正式に編纂した歴史書の“正史”や政治への志を説く“大説”には入らない、稗官(下級の役人)が民間の話を記録したような取り留めもなく真偽も怪しい話を指す語が、物語の意味に転じたという。 高丘哲次の『約束の果て: 黒と紫の国』は小説の本来の意味に相応しい小説。 高丘氏はこの作品でデビューし、日本ファンタジーノベル大賞を受賞した。 ファンタジーといってもただ現実とは別の世界や幻想的な生物がいるだけじゃない。 この

          高丘哲次『約束の果て: 黒と紫の国』〜取り零された者たちの偽史を巡る中華ファンタジー〜

          ぐだぐだ邪馬台国が好きなマスターに木下昌輝の『人魚ノ肉』を読んでほしい

          ノブブブブ……。 昨年ハロウィンにFate/Grand Orderで配信された、織田信長型の巨大埴輪が襲ってくる邪馬台国が舞台に新撰組が過去の清算する、トンチキなのに何故かすごくよくできている謎のイベント・ぐだぐだ邪馬台国が復刻された。 今年初めてプレイして幕末に興味を持ったり、山南さんや芹沢さんなど未実装の魅力的なキャラをもっと見たいと思ったマスターも多いだろう。 そんなマスターに勧めたいのが木下昌輝の『人魚ノ肉』だ。 幕末の動乱と土佐(高知県須崎市)の八百比丘尼伝説

          ぐだぐだ邪馬台国が好きなマスターに木下昌輝の『人魚ノ肉』を読んでほしい

          呉明益『歩道橋の魔術師』を読んだ〜戻らない悔恨と郷愁の話〜

          最近、昭和レトロが流行っている。 今の三十代以降の人間なら昭和を経験していないはずなのに、レモンの柄の砂糖入れや真鍮の魔法瓶や古風な扇風機を見ると懐かしさを感じるのはなぜだろう。 国や時代が違っても何となく郷愁を感じるものというのはあるのかもしれない。 呉明益の歩道橋の魔術師はまさに体感したことのないはずのかつての台湾のノスタルジーを感じる小説だ。 舞台は台北で60〜70年代に栄え、92年に解体された大規模な商店街、中華商場。 この中華商場は商店と住民の居住区が混在する大

          呉明益『歩道橋の魔術師』を読んだ〜戻らない悔恨と郷愁の話〜

          藤本タツキ『ルックバック』を読んだ〜フィクションの無力と力の話〜

            ファイアパンチ、チェンソーマンで有名な藤本タツキ先生が、ほぼ単行本一冊級のページ数で出してきた最新作ルックバックが7/19公開された。 すごかった。   舞台は山形県の田舎町。狭いところで絵を褒められて自分を天才だと勘違いした女の子・藤野。彼女が四コマを連載する学級新聞に一緒に漫画を掲載することになった不登校の女の子・京本に本物の才能を見せつけられ、挫折を味わったところから始まる。   よくある劣等感の話かと思ったら、京本は藤野の四コマの大ファンで、ふたりの漫画家を目

          藤本タツキ『ルックバック』を読んだ〜フィクションの無力と力の話〜

          デスノート Light up the NEW worldを観た〜馬鹿の頭脳戦、でもブロマンス映画としては最高峰の話〜

          「ノートが銃に勝てるわけねえだろ」 そんな……。 実写化大成功作品の続編で、東出昌大、池松壮亮、菅田将暉と最高のキャストを呼び、たくさんお金をかけてできた馬鹿の頭脳戦、デスノート Light up the NEW worldの話をします。 原作では描かれなかった「人間界で同時に存在していいデスノートは6冊まで」というルールに踏み込んだ本作の舞台は映画版デスノートの10年後の世界。 各地で失われたはずのデスノートを使った犯罪が多発したことから、東京でキラ逮捕に向けて奮闘する

          デスノート Light up the NEW worldを観た〜馬鹿の頭脳戦、でもブロマンス映画としては最高峰の話〜

          トーマス・トウェイツ『人間をお休みしてヤギになってみた結果』を読んだ

          将来に不安がある? 仕事仲間がどんどん先に進んで自分だけ取り残されたように感じる? 恋人と価値観の違いで喧嘩が増えた? そんな心配はいりません、だって、あなたは……ヤギなのだから!!! ヤバい発想をヤバい行動力とヤバい技術力とヤバい根性で形にした狂気のヤギ男体験レビューがこの本、『人間をお休みしてヤギになってみた結果』だ。 作者は原始時代でトーストを作れるかというようなコンセプトで書かれた『ゼロからトースターを作ってみた結果』のトーマス・トウェイツ。2016年のイグノーベ

          トーマス・トウェイツ『人間をお休みしてヤギになってみた結果』を読んだ