キリング・クッキング・ダイニング
子どもの頃、カスクートをフリスビーみたいに投げて遊んだらお袋に包丁で殴られた。食い物を粗末にしちゃいけないと身に沁みた。
だから、こんなに難儀な人間になっちまったのか。
俺の殺しの流儀はふたつ。標的が飯を食い終えてから殺すこと、殺した後に冷蔵庫を開けること。
空腹のまま死んだんじゃ浮かばれないし、腐り果てる食物は哀れだ。
血の海に沈む暗いキッチンで、絞殺死体が腰掛けるダイニングで、俺は冷蔵庫の残り物で飯を作って食ってから帰る。
献立を考えるのは得意になった。冷凍のタイ米と卵ひとつでも美味い炒飯を作れる。サバイバリストの倉庫に並ぶ大量の缶詰に眩暈がした。カレーを作るため食品を持ち帰ったのはあの一件だけだ。
巷じゃ飯より命を粗末にする方が大罪らしいが、お袋はひとを殺すなとは言ってくれなかった。
お袋は血を吐きながら、言わなくてもわかるだろうと俺を睨んだ。子育てって基本のキまで教えるもんじゃないかと言いたかったが、先に腹に刺さった包丁を引き抜いちまったから俺の反論は届かなかった。
何にせよ、俺は流儀を曲げたことはない。
だから、今の状況をどうするか困惑している。
じめつく廃教会に巣食うカルトの連中を皆殺しにするのは簡単だった。食堂代わりの礼拝堂に入り、いつも通り冷蔵庫を開ける。
青白い光と共に現れたのは、ラップに包まれた右手首だった。愕然とした。ここが食人を教義に掲げていたなんて。俺は右手首の調理法を知らない。
背後で泣き声が聞こえて、俺は標的をひとり見過ごしていたことに気づく。
信者の死体を前に膝をついていたのは、金髪碧眼の天使みたいな男だった。こいつが教祖だと一目でわかった。
「何てことを……彼らは皆、完璧な状態で食卓に上るために日夜励んでいたのに……」
教祖は讃美歌を歌うような声で叫び、真っ青な目で俺を見た。
「食材を粗末にするなんて!」
そう言われたら、俺は動かない訳にはいかない。