FGOハロウィン2022のためのざっくり水滸伝解説
します。
FGOでそろそろ燕青以外の水滸伝鯖増えないかなとは思ってたけど、まさかハロウィンに来ないと思ってたのでびっくりした。
ハロウィンに姫路城やピラミッドを出すゲームだった。油断してた。
中国古典名作文学というとお堅くてとっつきにくいイメージがあるけど水滸伝はそんなことはない。
原初(?)の転生チートものだし、登場人物皆半人外なので集団戦も個人戦も異能少年マンガに近くて面白い。
そして、治安が最悪。主要メンバーの六〜七割が殺人鬼、アル中、文盲、食人経験ありとすげえ奴らで構成されている。五条悟みたいな最強道士もいるよ。何でもありかよ。
ざっくり解説すると、水滸伝の発端は十二世紀に起こった反乱事件。
腐った政治に反抗した宋江という男と仲間の三十六人の英傑たちは実際には処罰されたけど、庶民の間では大人気。彼らを題材にしたいろいろな講談ができた。
十三世紀には水滸伝の原型となる講談・大宋宣和遺事が成立した。
FGOに登場する燕青や史進や呼延灼(こっちでの名前は呼延棹だけど)もここで出てくる。
盗賊たちの話なのでこの頃から倫理観バグはすごい。離婚寸前の夫婦の子どもを人質に取って脅したら復縁したよ、いいことすると気持ちがいいね!みたいな話が平気で出てくる。どんな感情で読めばいいんだ。
それじゃまずいと思ったのか(倫理面は全く改善されていないが)、十五世紀に文化人の鑑賞に耐えうる作品をということで大幅改変されて、ついでに人気の講談の奴らをオマージュした連中を増やしてできたのが水滸伝。
まず主要人物が百八人に増えた。しかも、皆封印されていた天の魔物が人間に転生したと言う設定。ファンタジーだね。
彼らはそれぞれ星占いにも使われる百八の星と対応している。
最強で孤高の英雄は天勇星、日陰者の盗賊に身をやつした名家の末裔は天暗星。大事なひとたちを何度も失って血みどろの復讐をする傷だらけの生涯だった男は天傷星など、星と人物像が重なるひとも多いので、推しが見つかったら照らし合わせて見るのも楽しいかもしれない。
何故天魔みたいなおっかない奴が主人公かというと、その頃の国は化け物以上に腐り切ってたから。
天命に導かれて水のほとりの要塞・梁山泊に集まった百八人は、盗賊だけど朝廷への忠義を持つ首領を筆頭に、腐敗した役人たちの軍と戦い、富める者から奪い、貧しい者に与える義賊集団となるのだ!
これは朝廷に近い文化人たちに読まれて出版を許してもらうための忖度に近い。
実際には世直しと全く関係ない犯罪をライブ感で行い、バチギレた敵役に仲間が捕まって、しゃあねえお礼参りじゃ全員ぶっ殺すぜ!と暴れるのが大半。
敵は腐れ役人が多いので結果的に世直しに繋がるのかもしれないが、殺した役人の肉でBBQパーティを開いたりするので毒を持って毒を制しきれていない。
あと普通に市井の街の女が敵なこともある。女も役人も真っ青になるくらい最悪な連中が多いので無問題。
封建的な時代背景は差し引いて、水滸伝は別に女に厳しいって訳でもない。仲間で鬼強美少女令嬢とか出てくる。
梁山泊の蛮族どもに迂闊に喧嘩を売ると、老若男女問わず地の果てまで追っかけ回されて、内臓を引っこ抜かれるというだけの話だ。
成立時期には著作権の概念がないので、水滸伝もいろいろな講談から人気キャラを引っ張ってきたり、自由に創作されている。
連載終了したジャンプ漫画の人気キャラが外伝を作られるように、水滸伝も人気の多い奴らは何世代も新たな話が付け加えられている。
その証拠に文法や作中の建築様式が明らかに構成のものだったりする。
詳しい話は機会があれば。
水滸伝自体も最高の絶頂期で俺たちの戦いはこれからだエンドする七十回本、彼らが朝廷に帰属して滅ぶまでを描く百回本、エピローグを含めた百二十回など三つのエンドがあるフリーな創作だ。
派生作品も多い。
作中で拾いきれなかった伏線や途中で消えた人物たちが道半ばまで果てた好漢たちの仇を打つ神創作や、梁山泊のメンバーが負けて刑死するオリキャラチートアンチヘイト創作まで、現代の二次創作に通じるものほぼ全部がある。ハーメルンかよ。
全部を拾うのは難しいので気になったものを選んでみるのがお勧め。
初心者向けにざっくりしたガイドを載せます。
専門家でもないただのファンの主観なので参考までに。
・岩波版原典
とりあえず最初はこれ。当時の講談風で雰囲気充分。倫理観も当時に忠実。人肉を食うのが当たり前の倫理観に慣れろ。
・横山大輝版漫画
現代日本の水滸伝のイメージを作ったのはこれじゃないかと思う。入手困難だけど図書館にもあるところはあるはず。ビジュアルがつくと一気に覚えやすくなるのでお勧め。
・絵巻水滸伝
最高。倫理的問題や作品の矛盾を無理矢理修正せず、派生作品との整合性もつけたビジュアルノベル。
野蛮なピカレスクものやバトルエンタメの魅力はそのまま、エモ満載の大河に仕上げたすごい作品。デカい、高い、取扱店が少ないが唯一の難点。図書館にあるところはあるはず。あるかな……?
・北方謙三版
有名作家の作品なので信頼したいところだけど全くの別物だ。革命家の側面を押し出した、思想強めのヒロイックな時代劇。魔星という設定もないので暗めの陰謀的な戦いも多い。
島耕作の作者にチェンソーマン描かせたら別物になるでしょう。そういうアレです。
・悲華水滸伝
ゴロツキどもを薄幸な美青年に変えた耽美二次創作。男どうしで同衾するし、唇で美少年の涙を拭う。
宝塚で忍獄を舞台化しますって言われたらビビるでしょう。そういうアレです。
作中でそんなに関わりのないマイナーCPが度々推される。女流歴史作家とBL解釈バトルをしよう!
…………武松×楊志は正直アリだと思うんだよな。
・まんがで読破
漫画でなら学びやすいと思って手にしちゃ絶対駄目です。マジの別モンだから。
百二十話を一巻完結漫画に押し込めた結果、主人公が変わり、最序盤の雑魚敵がラスボスになり、知らないひとがくれた剣から世直しビームが出て最強になる、サメ映画に近い質感になった。
うおお鬼滅の刃を一巻にまとめるぜ!炭治郎に修行させる暇はねえ!主人公は冨岡!ラスボスは累!悪鬼滅殺ビーム!終わり!というアレです。
正直水滸伝を知ってから読むとめちゃくちゃ面白いのである意味お勧め。
あと、やる夫スレが苦手じゃなくて読める環境があるなら「百八星が梁山泊に集うようです」ってスレはすごくお勧め。
リブート最高名作なのに入手困難な絵巻水滸伝を知名度高いキャラで配役してくれて、演出も知識解説も高品質。
二部でエターだけどキリのいい七十回本のラストまではきっちり揃ってるから試し読みに是非。
仕事の原稿が忙しいのでいつかはわかりませんが、
そのうち水滸伝のここがわかってればハロウィンイベが面白い!みたいな解説をしたいと思います。
水滸伝を読もう!
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